Wellness講座「あなたの『血糖値』は大丈夫?糖尿病のリスクを防ぐ」

「あなたの『血糖値』は大丈夫?糖尿病のリスクを防ぐ」
「あなたの『血糖値』は大丈夫?糖尿病のリスクを防ぐ」

「血糖値」は健康診断の基本項目ですが、その具体的な意味や体への影響を正しく理解している方は少ないかもしれません。血糖値の異常は、自覚症状のないまま糖尿病をはじめとする重大な生活習慣病の引き金となります。今回は体内で血糖値が一定に保たれる仕組みや高血糖の弊害、食後高血糖を防ぐための生活習慣、特に食事、運動の具体的なアプローチについて解説します。
監修:関西健康・医療創生会議

<教えてくれるのは>

平田結喜緒(ひらた ゆきお) 先生
(公財)兵庫県予防医学協会副会長・健康ライフプラザ健診センター長。前先端医療センター病院長。東京科学大学(旧・東京医科歯科大学)名誉教授。専門分野は内分泌代謝学、高血圧、分子血管生物学。日本内分泌学会評議員・理事、日本心血管内分泌代謝学会評議員・理事、日本心脈管作動物質学会評議員・理事、日本糖尿病学会評議員、日本高血圧学会評議員などを歴任。

平田結喜緒(ひらた ゆきお) 先生

(公財)兵庫県予防医学協会副会長・健康ライフプラザ健診センター長。前先端医療センター病院長。東京科学大学(旧・東京医科歯科大学)名誉教授。専門分野は内分泌代謝学、高血圧、分子血管生物学。日本内分泌学会評議員・理事、日本心血管内分泌代謝学会評議員・理事、日本心脈管作動物質学会評議員・理事、日本糖尿病学会評議員、日本高血圧学会評議員などを歴任。

Q.健康診断で血糖値の異常を指摘されました。そもそも「血糖値」とは何を意味する数値ですか?

A.

血糖値とは、100ccの血液中に含まれるブドウ糖(グルコース)の濃度(mg/dL)を示す数値です。私たちが白米やパン、麺類などの炭水化物を摂取すると、消化酵素によってブドウ糖に分解され、それが小腸から吸収されて血液中へと移行します。ブドウ糖は、脳や筋肉をはじめとする全身の細胞が活動するための最も重要なエネルギー源であり、血液を介して隅々まで運ばれます。

健康な成人の場合、空腹時の血糖値はおおむね70〜99mg/dLの範囲にコントロールされています。特定健診(メタボ健診)などでは、原則「空腹時血糖値」(10時間以上の絶食後)を測定して判定します。

Q.血糖値を一定に保つ仕組みを教えてください。

A.

人間の体内には、血糖値を常に一定の安全な範囲に維持するための精密な恒常性(ホメオスタシス)の仕組みが備わっています。

食後にブドウ糖が血中に流れ込み、血糖値が上昇すると、膵(すい)臓にあるランゲルハンス島のベータ(β)細胞から「インスリン」というホルモンが分泌されます。インスリンは、血液中のブドウ糖を筋肉や肝臓などの細胞内へと取り込ませ、エネルギー源として利用したり、グリコーゲンとして貯蔵したりします。この働きによって、食後に上がった血糖値は数時間かけて緩やかに低下します。

逆に、空腹時や運動時などに血糖値が低下すると、膵臓のアルファ(α)細胞から「グルカゴン」というホルモンが分泌されます。グルカゴンは肝臓に蓄えられていたグリコーゲンを再びブドウ糖へと分解し、血中に放出させることで、低血糖を防ぎます。また膵臓のデルタ(δ)細胞からは「ソマトスタチン」というホルモンが局所的に分泌され、インスリンやグルカゴンの分泌を抑えます。

Q.「高血糖」が続くと、体にどのような影響を及ぼすのでしょうか?

A.

血液中に過剰なブドウ糖が滞留する「高血糖」が慢性的に持続すると、以下のような機能障害が引き起こされます。

❶血管の糖化と動脈硬化:過剰なブドウ糖がタンパク質と結合して(「糖化」と呼びます)生成された最終産物は、終末糖化産物(AGE)と呼ばれます。AGEは代謝されずに血管壁に蓄積すると、血管が柔軟性を失って肥厚し、大血管では動脈硬化が促進され、心筋梗塞や脳梗塞を発症する危険性を高めます。

❷活性酸素による細胞傷害:細胞が過剰なブドウ糖を代謝する過程で、強力な酸化作用を持つ「活性酸素」が大量に生成されます。活性酸素は健全な細胞や遺伝子を傷つけ、全身の慢性炎症や老化を促し、血管障害を悪化させます。

❸細小血管障害:目や腎臓、末梢神経には毛細血管が高密度に張り巡らされ、高血糖のダメージを受けやすい部位です。長年にわたり血糖コントロールが不良な糖尿病で見られる「網膜症」(失明原因の上位)、「腎症」(人工透析導入の主因)、「神経障害」(手足のしびれや痛み)は、糖尿病三大合併症としてよく知られています。

❹インスリン抵抗性:高血糖にさらされ続けた細胞はインスリンに対する感受性が鈍くなり、糖を取り込みにくくなります(「インスリン抵抗性」)。膵臓はそれを補おうとさらにインスリンを分泌し続けることで過労状態に陥り、やがて分泌能力が低下してしまいます(「インスリン分泌不全」)。こうして糖尿病の発症へとつながりやすくなる訳です。

Q.最近よく聞く「血糖値スパイク」とはどういう意味ですか?

A.

食後には血糖値が上昇しますが、食事のとり方やインスリンの働き具合によって、食後の短時間(1〜2時間以内)に血糖値が急上昇し、インスリンが大量に分泌された後に急降下する状態を「血糖値スパイク」と呼んでいます(図1)。このような食後血糖値が乱高下する「血糖値スパイク」が長期間にわたって繰り返されると、糖尿病や動脈硬化を引き起こしやすくなります。一般に「食後高血糖」(食後1〜2時間の血糖値が180mg/dL以上)の人では、心筋梗塞や脳梗塞を発症しやすく、死亡リスクが1.5〜3倍に高くなるという海外の報告があります。

Q.健康診断や人間ドックで「食後高血糖」がわかりますか?

A.

糖尿病を見つけるための検査として用いる空腹時血糖値やHbA1c(過去1〜2か月の血糖値の平均値を反映する指標)では、食後高血糖を見つけることができません。しかし空腹時血糖値が高め(100〜125mg/dL)、糖尿病の家族歴、肥満・高血圧・脂質異常などの動脈硬化のリスク因子がある人では食後高血糖や糖尿病のリスクが高くなります。

糖尿病の疑いがある場合、「ブドウ糖負荷試験」(OGTT)を行うことが勧められます。前日の夜から絶食して早朝空腹時に採血した後、75gのブドウ糖液を飲み、30分、1時間、2時間後に採血して、血糖値を測定します。空腹時と2時間後の血糖値から、「正常型」、「境界型」、「糖尿病型」に区分されます(図2)。2時間後の血糖値(140〜199mg/dL)であれば「境界型」と判定されます。このようにOGTTは食後高血糖を見つけ、糖尿病予備群(“隠れ糖尿病”)が発見できます。また血中インスリン濃度を測定し、インスリンの分泌能や抵抗性も評価できます。

Q.日常生活で「食後高血糖」を予防する対策を教えてください。

A.

「食事のとり方」と「適度な運動」が有効な防御法です。

❶食事のポイント:「ドカ食い、早食い、欠食」を避ける、すなわち食べ過ぎず、ゆっくり食べることです。特に糖質のとりすぎには気を配りたいところです。主食は白米より玄米、白パンより全粒粉パン、うどんよりそばなどのほうが食物繊維を多く含むので糖質の吸収が遅くなります(GI値:コラム参照)。空腹状態が続いた後の食事は糖質の吸収率が高くなるため、食事(特に朝食)は抜かずに1日3食を規則正しくとるのが基本です。また、食べる順番も大事です。先に食物繊維の多い食品(野菜、海藻類、キノコ類など)やタンパク質を、最後に炭水化物をとる「カーボ・ラスト」を心がけましょう。肉や魚などのタンパク質はインスリン分泌を促す消化管ホルモンの「インクレチン」を増やすので、血糖値の上昇が抑えられます。

❷運動のポイント:ウォーキングやスイミングなどの有酸素運動がおすすめです。ブドウ糖をエネルギーとして消費することで高血糖が改善され、脂肪が燃焼して肥満も解消されます。少し強めの運動で1週間に3回以上、合計150分以上が目安です。特に食後1時間以内に行う15〜30分の散歩は「食後血糖値」を抑えるのに役立ちます。スクワットなど筋トレを組み合わせると、さらに血糖改善効果が期待できます。中高年でやせている人は、筋肉量や筋力の低下(「サルコペニア」)を予防するためにも、週に2〜3日の筋トレやストレッチ体操を行うのがよいでしょう。

血糖値の安定は、日々の選択の表れです。食事の順序や食後の軽い運動など、できることから無理なく習慣化して、将来の健康を守る一歩を踏み出しましょう。

\ COLUMN /
GI値とは?

GI値(グリセミック・インデックス)とは、体内で糖質が吸収されて血糖値を上げる速度を数値化したものです。低GI食品(55以下)は血糖値の上昇が緩やかなため、肥満や糖尿病の予防に有効です。逆に高GI食品(70以上)は急激な血糖値の上昇(「食後高血糖」)をもたらしますので注意が必要です。中程度GI食品(56〜69)は両者の中間的な血糖値の上昇を示します。

果物と血糖値の関係は?

果物には果糖やブドウ糖などの糖質が含まれるため、血糖値を上昇させますが、果物の種類によって食物繊維や水分の割合、糖質の構成比が異なるため、GI値には大きな差があります。例えば、キウイ、イチゴ、ブルーベリー、オレンジ、リンゴ、ナシなどは、豊富な食物繊維が糖の吸収を遅らせる(低GI食品)ため、適量であれば血糖値への影響は比較的小さい傾向にあります。一方で、バナナ、パイナップル、ブドウ、スイカなどは糖質密度が高く、食後の血糖値を上昇させやすい(中程度GI食品)ため、とる量には配慮しましょう。1日の量の目安は「80kcal(リンゴ半分、キウイ1.5個、ミカン中2個、バナナ中1本程度)」が基本とされています。摂取するタイミングも重要で、空腹時や夜間の摂取は血糖値を急上昇させるので、「食後のデザート」として楽しむのがおすすめです。なお、フルーツジュースやドライフルーツは、製造・加工の過程で食物繊維が失われていたり、糖分が濃縮されていたりするため、血糖値を急上昇させます(高GI食品)。できるだけ「生の果実」を摂取するように心がけましょう。

Well TOKK vol.43 2026年10月2日発行時の情報です。