Wellness講座「『最近、疲れやすい…』それは“鉄欠乏性貧血”のせいかも!?」

「『最近、疲れやすい…』それは“鉄欠乏性貧血”のせいかも!?」
「『最近、疲れやすい…』それは“鉄欠乏性貧血”のせいかも!?」

疲れやすい、動悸、息切れ、めまい…。これらの不調は、貧血のせいかもしれません。日本人で最も多い貧血は、体内の鉄分が不足する「鉄欠乏性貧血」です。特に月経がある20〜40代女性の約40%以上が鉄欠乏状態にあるとされ、多くの人が貧血に慣れて放置していますが、検査をすると重症化しているケースも少なくありません。今回は、鉄欠乏性貧血を正しく知るためのポイントをご紹介します。
監修:関西健康・医療創生会議

<教えてくれるのは>

平田結喜緒(ひらた ゆきお) 先生
(公財)兵庫県予防医学協会副会長・健康ライフプラザ健診センター長。前先端医療センター病院長。東京科学大学(旧・東京医科歯科大学)名誉教授。専門分野は内分泌代謝学、高血圧、分子血管生物学。日本内分泌学会評議員・理事、日本心血管内分泌代謝学会評議員・理事、日本心脈管作動物質学会評議員・理事、日本糖尿病学会評議員、日本高血圧学会評議員などを歴任。

平田結喜緒(ひらた ゆきお) 先生

(公財)兵庫県予防医学協会副会長・健康ライフプラザ健診センター長。前先端医療センター病院長。東京科学大学(旧・東京医科歯科大学)名誉教授。専門分野は内分泌代謝学、高血圧、分子血管生物学。日本内分泌学会評議員・理事、日本心血管内分泌代謝学会評議員・理事、日本心脈管作動物質学会評議員・理事、日本糖尿病学会評議員、日本高血圧学会評議員などを歴任。

Q.貧血のとき、体はどんな状態なのですか?

A.

全身が「酸素不足(酸欠)」に陥っています。
血液は全身を巡って酸素や栄養分などを届ける極めて重要な役割を担っています。その中心となる赤血球には「ヘモグロビン(血色素)」という鉄を含むタンパク質があり、これが酸素と結びついて体のすみずみに酸素を運んでいます。貧血とは、このヘモグロビンの濃度が低くなった状態を指します(図1・表1)。
ヘモグロビンが少なくなると、全身の組織に十分な酸素が行き渡らなくなり、筋肉、心臓、脳などの重要な臓器が慢性的な「酸欠状態」になります。その結果、階段の上り下りや運動をすると疲れやすい、全身がだるい(筋肉)、動悸や息切れがする(心臓)、めまいや立ちくらみがする(脳)など様々な症状を自覚するようになり、また皮膚が蒼白となるなどの症状も現れます。

赤血球の寿命は約120日で、毎日約1%ずつ入れ替わるため、鉄分を毎日コツコツと補給し続けなければなりません。鉄不足が進行すると、見た目にも変化が現れます。爪が割れやすくなったり、中央がへこんで反り返る「スプーン状爪」になったりといった症状が代表的。髪のパサつきや抜け毛、口角炎・舌炎、集中力低下やイライラ感といった精神的な不調など様々な症状があります。これらを「体質だから」と放置すると、心臓への過度な負担による心不全、免疫力の低下による感染症リスク、高齢者では認知機能の低下、妊娠時では早産や低出生体重児のリスクが高まるなど重症化しますので、決して軽視してはいけません。

Q.鉄欠乏性貧血の原因について教えてください。

A.

鉄が欠乏するのは、大きく分けて「鉄の摂取不足」「鉄の吸収の低下」「失われる鉄の増加」の3つの原因が考えられます。

❶鉄の摂取不足:最も一般的な原因の1つが、若い女性での偏った食事や無理なダイエットです。若い男性でも、インスタント食品などの偏った食事によって鉄欠乏性貧血になることがあるので、注意が必要です。高齢者での食事量の低下や、ベジタリアン・ヴィーガンのように動物性食品を摂らない食生活も、1日の鉄の必要量を満たせなくなることがあります(表2)。

❷鉄の吸収の低下:十分な量を食べていても、鉄を体内でうまく取り込めていない場合。例えば胃の切除手術後、萎縮性胃炎などの消化器疾患、胃酸の分泌を抑える制酸薬の長期間使用などは、鉄の吸収効率を著しく低下させます。

❸失われる鉄の増加:体内の鉄が体外へ漏れ出してしまう状態。成人女性では毎月の月経、特に子宮筋腫や子宮内膜症による「過多月経」や、妊娠・授乳期における胎児への供給増加が代表的です。男女共通で注意が必要なのが、自覚症状のない「微量な出血」。胃潰瘍や胃がん、大腸がん、痔、炎症性腸疾患などからの消化管出血が続くと、気づかないうちに血液が失われます。特に高齢者の貧血は、体内での慢性的な出血、つまり深刻な病気のサインの可能性があるので、必ず医療機関で受診して原因を特定することが重要です。

Q.鉄欠乏性貧血はどうすれば発見できますか?

A.

通常の血液検査に加え、「フェリチン」という数値を調べることが鍵となります。
健康診断の基本的な血液検査である「全血球計算(血算)」では、赤血球の数、血色素量(ヘモグロビン濃度)、ヘマトクリット(血液中の赤血球の割合)などを測定します。これらは現在の赤血球の状態を把握する指標にはなりますが、体内の「鉄の在庫状況」まではわかりません。そこで、より詳しく診断するために推奨されるのが「フェリチン」の検査です。
フェリチンは、体内に鉄を安全に貯蔵するためのタンパク質で、いわば「鉄の貯蔵庫」。鉄は通常はフェリチンに包み込まれ、肝臓、脾臓、骨髄などに蓄えられています。体内の鉄が不足し始めると、体はまずフェリチンの中にある貯蔵鉄を優先的に使い、最後に血液中のヘモグロビンが低下します。 つまり、ヘモグロビン値が基準値内でも、フェリチンが低い状態であれば、貯蔵庫が空っぽになりかけている「潜在性鉄欠乏」(隠れ貧血)の状態といえます。この段階で疲労感や集中力の低下、抜け毛といった不調が現れることがあり、将来的な貧血リスクの警報ともいえるため、フェリチン値の確認は非常に有用です。

Q.鉄欠乏性貧血にならないために、食事はどんなことに気をつけたら良いでしょうか?

A.

「ヘム鉄」と「非ヘム鉄」の違いを理解し、鉄の吸収効率を上げる食べ方を工夫しましょう。
食事から摂取できる鉄には、動物性食品に含まれる「ヘム鉄」と、植物性食品に含まれる「非ヘム鉄」の2種類があります(図2)。

●ヘム鉄:肉(レバー、赤身肉)や魚(カツオ、マグロ)などに多く含まれます。タンパク質と結合した構造で、腸からそのまま効率良く吸収され、吸収率は10〜30%と高いのが特徴です。

●非ヘム鉄:野菜(コマツナ)、豆類(大豆製品)、海藻(ヒジキ)などに含まれます。吸収率は2〜5%と低く、そのままでは吸収されにくい無機鉄の状態で存在しています。
非ヘム鉄の吸収率を上げるためには、ビタミンCを多く含む食材(柑橘類、ピーマン、ブロッコリーなど)を同時に摂取することが効果的。ビタミンCが非ヘム鉄を体内へ取り込みやすい形に変えてくれます。また、お茶やコーヒーに含まれるタンニンなどの成分は鉄の吸収を阻害するとされますが、多量に飲まない限り問題ないでしょう。

なお、貧血を食事だけで改善できるのは軽症の場合のみ。中等度以上の貧血(ヘモグロビン値<10g/dL)では、医師に相談のうえ、医療用の「鉄剤」の併用が勧められます。鉄剤の服用によりヘモグロビン値は1〜2カ月で回復しますが、貯蔵鉄(フェリチン)まで十分に満たすにはさらに2〜3カ月かかります。自己判断で服用を中止せず、貯蔵庫を満タンにすることが再発防止の重要なポイントです。

\ COLUMN /
採血時の貧血

血液検査で採血すると、顔色が蒼白になる、めまいや立ちくらみが起きる…という方がいます。これは過緊張によって「血管迷走神経反射」が起こり、自律神経の反応で血圧が下がって脳への血流が一時的に低下するためです。いわゆる「脳貧血」の一種で、採血による鉄欠乏性貧血のためではありません。血液検査の採血量は通常5〜10㎖程度で、健康には影響しません。過去に採血時の脳貧血を経験した人は事前に医療スタッフに伝え、横になって採血してもらうと良いでしょう。

鉄瓶を使えば貧血は良くなる?

「鉄瓶や鉄鍋を使うと貧血が良くなる」という伝統的な知恵を耳にしたことがある人は多いでしょう。確かに、鉄製の調理器具を使用すると微量の鉄が食材へ溶け出しますが、吸収率の低い「非ヘム鉄」の状態で、鉄摂取として十分な量ではありません。やはり鉄は食物からしっかり摂ることが大切です。

過剰な鉄は体に有害!?

鉄は、普通の食事によって過剰摂取になることはまずありません。しかし、鉄剤や鉄サプリを不適切に過剰摂取すると、胃痛、吐き気、便秘や下痢などの症状が出ることがあります。特に、アルコール性肝障害や慢性腎不全など、体内の鉄をうまく処理できない病気の方は「鉄過剰症」(ヘモクロマトーシス)となり、肝臓、腎臓、膵臓(すいぞう)などに鉄が沈着して機能障害を起こす場合があるので注意が必要です。鉄剤や鉄サプリが必要な場合は自己判断を避け、医師に相談して摂取しましょう。

Well TOKK vol.41 2026年4月2日発行時の情報です。