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Wellness講座「少しの違和感が突然死に!?心臓の不調を知る」
全身に血液を送るポンプの働きを担い、生命維持に欠かせない臓器「心臓」。心臓は1日に約10万回収縮と拡張を繰り返し、約8,000ℓ(ドラム缶なら約40本分!)もの血液を全身に送り出すと言われています。常に休みなく働き続けているからこそ、昨日まで元気だった人が急に心臓病で倒れるなんてことも…。予期せぬ事態にあわてないように、心臓の働きと病気について正しく知っておきましょう!
監修:関西健康・医療創生会議
平田結喜緒(ひらた ゆきお) 先生
(公財)兵庫県予防医学協会副会長・健康ライフプラザ健診センター長。前先端医療センター病院長。東京科学大学(旧・東京医科歯科大学)名誉教授。専門分野は内分泌代謝学、高血圧、分子血管生物学。日本内分泌学会評議員・理事、日本心血管内分泌代謝学会評議員・理事、日本心脈管作動物質学会評議員・理事、日本糖尿病学会評議員、日本高血圧学会評議員などを歴任。
平田結喜緒(ひらた ゆきお) 先生
(公財)兵庫県予防医学協会副会長・健康ライフプラザ健診センター長。前先端医療センター病院長。東京科学大学(旧・東京医科歯科大学)名誉教授。専門分野は内分泌代謝学、高血圧、分子血管生物学。日本内分泌学会評議員・理事、日本心血管内分泌代謝学会評議員・理事、日本心脈管作動物質学会評議員・理事、日本糖尿病学会評議員、日本高血圧学会評議員などを歴任。
Q.心臓の仕組みについて教えてください。
心臓は胸の中央よりやや左寄りにあり、握りこぶしくらいの大きさです。内部は、右心房・右心室・左心房・左心室の4つの部屋に分かれていて、左右の心房の間は心房中隔、心室の間は心室中隔という壁で仕切られています(図1)。心房と心室の出口にはそれぞれ弁があり、血液の逆流を防いでいます。
心臓には、心臓と全身をつなぐ大静脈と大動脈、心臓と肺をつなぐ肺動脈と肺静脈が出入りしています。心臓から送り出されて体中を巡ってきた血液(静脈血)は、上下大静脈を通って右心房に入ります。右心房から右心室に入り、肺動脈から肺に送られると、肺で二酸化炭素と酸素の交換が行われ、酸素を多く含む新鮮な血液(動脈血)に生まれ変わります。この動脈血は肺静脈を通って左心房から左心室に入り、左心室から大動脈を経て全身に送り出されます。
Q.成人の主な心臓の病気である 「虚血性心疾患」について教えてください。
「虚血性心疾患」は、心臓の筋肉(心筋)に酸素や栄養を送る血管(冠動脈)が動脈硬化などで狭くなったり詰まったりして心筋に血液が送られなくなるために起こる病気で、代表的なものに「狭心症」と「心筋梗塞(しんきんこうそく)」があります(図2)。
「狭心症」は、動脈硬化で冠動脈が狭くなって血液が十分に流れなくなり、心筋の一時的な血液不足(心筋虚血)のために胸痛が起こります。階段を上る、力仕事をするなどの労作時に、前胸部が締め付けられる、あるいは圧迫されるような痛みが数分続きますが、静かにしていると消失します(労作性狭心症)。ほかに夜中の安静時や睡眠中(特に明け方)に起こる胸痛もあります(安静時または冠攣縮性(かんれんしゅくせい)狭心症)。狭心症では冠動脈を広げる薬剤(ニトロ製剤)がよく効きます。 「心筋梗塞」は、冠動脈の動脈硬化が進行してできたプラーク(粥状(じゅくじょう)の隆起)が破裂して血栓ができ、それが血管をふさいで血流が完全に止まることで心筋の壊死(えし)が起こる病気です。激しい胸痛が15分以上(時に数時間)続き、冷や汗や吐き気を伴うこともあります。安静やニトロ製剤でも軽快せず、突然死につながるため、発作が起きたら救急車を呼んで一刻も早く治療しなければなりません。急性心筋梗塞は年間約15万人が発症し、そのうち約30%が亡くなっていると言われます。急性心筋梗塞の治療には、冠動脈の血管にカテーテルを入れてバルーン(風船)で広げたり、閉塞(へいそく)を予防するためにステントと呼ばれる金属でできた網状の筒を設置するインターベンション治療や、狭窄(きょうさく)した冠動脈の前後に別の血管で迂回路(うかいろ)を作る冠動脈バイパス手術などの外科的治療があります。
虚血性心疾患は高齢になるほど患者数が増えますが、40〜50代でも発症するため注意が必要です。危険因子は、喫煙・高血圧・糖尿病・脂質異常症(高LDLコレステロール血症/低HDLコレステロール血症)・肥満(特に内臓脂肪型)などです。健診でメタボリック症候群やその予備軍を見つけて早めに対処することが大切です。生活習慣としては、禁煙や節酒、食塩・糖質・飽和脂肪酸を取りすぎない、魚や野菜・大豆製品を多く取るなど栄養バランスのとれた食事を心掛けてください。適度な運動も重要です。毎日30分程度のウォーキングを行いましょう。生活習慣の改善で危険因子が良くならなければ、かかりつけ医を受診して治療を受けましょう。
Q.健康診断で「不整脈」と言われましたが、 どうすれば良いでしょうか?
右心房の上部にある洞結節(どうけっせつ)という特殊な心筋細胞は規則的な電気信号を発生させ、それが心房から心室へと伝わり、各心筋が規則的に収縮します。このような心臓内の電気信号の伝わる経路を「刺激伝導系」と呼びます。この刺激伝導系に何らかの異常が生じて、脈が遅くなったり(徐脈)、速くなったり(頻脈)、リズムが不規則になる(期外収縮)ことがあります。これを「不整脈」と言います。不整脈には放置しても良いものから突然死につながるものまであります。不整脈に気付いたり、健診や心電図異常で不整脈を指摘されたりした場合は、循環器科を受診して、治療を要するものか、放置して良いものかを判定してもらいましょう。
Q.「心不全」はどのような病気ですか?
「心不全」は、心臓が十分に収縮や拡張をできなくなり、ポンプとしての働きが低下した状態のことです。
「慢性心不全」は、虚血性心疾患・高血圧・弁膜症・不整脈・心筋症などの心臓病や、慢性肺疾患など長期にわたって心臓に負担がかかることで心臓のポンプ機能が徐々に悪化した状態です。肺や全身に血液がたまるうっ血や、心室の肥大・拡張が起こると心臓にかかる負担が増大し、ますます心不全が悪化するという悪循環が生じます。自覚症状には動悸(どうき)・息切れ・呼吸困難・むくみ・めまいなどがあります。これらの症状が続くときは循環器科を受診しましょう。一般検査には心電図や胸部X線・心エコー・血液検査(BNP:下記COLUMN参照)などがあります。塩分や水分制限といった食事療法や、利尿薬・血管拡張薬・強心薬などの薬物療法が必要となります。
一方、「急性心不全」は、急性心筋梗塞や突然発症した不整脈などで心臓のポンプ機能が急激に悪化した状態です。突然死に至ることもあるので、直ちに病院へ救急搬送して治療する必要があります。 日本の心不全患者は100万人以上とされていますが、急速な高齢化が進む中、今後ますます高齢者の心不全患者が増えることが心配されます。虚血性心疾患のところで述べたように、普段から運動や食事などの生活習慣に気をつけることで予防に努めましょう。
冬の入浴では、暖かい居間から寒い風呂場へ移動して血管が縮んだ後、急に熱い湯船につかると血圧が上がります。さらにお湯につかっていると、今度は血管が一気に広がって血圧が下がります。このように急激な気温の変化によって血圧が大きく上下すると、脳卒中や心筋梗塞、不整脈などを引き起こすことがあり、「ヒートショック」と呼ばれます。入浴中に亡くなる人は年間約1万4,000人との報告があり、その多くはヒートショックが原因と推測されています。高血圧や動脈硬化のある人が影響を受けやすいとされるため、特に高齢の方はご注意を。冬場には脱衣所をあらかじめ暖めておく、お湯をぬるめにするなど寒暖差を軽減して、ヒートショックを防ぎましょう。
「心臓は右心から肺へ、左心から全身へと血液を送り出すポンプであり、血液が全身を循環している」ことは今では誰でも知っています。しかし、約400年前までの実に14世紀もの間、ヨーロッパの医学界では古代ギリシャの医師ガレノスが提唱した「血液は肝臓で作られ、右心から隔壁にある穴を通って左心に流れ、肺からの空気と混じって“生命精気”となり、全身に送られる」という説が信じられていました。17世紀初め、英国の医師ウィリアム・ハーベイ(1578-1657年)が動物実験を積み重ね、「血液は心臓から出て動脈経由で体の各部を経て、静脈経由で再び心臓へ戻る」という『血液循環説』を提唱。当初は激しい反論の声が上がりましたが次第に認められるようになり、今では循環器学の礎となりました。これは生物学史上最大の発見と言えます。
従来、心臓は血液を全身に送り出すポンプ器官と考えられていました。ところが1984年、松尾壽之・寒川賢治両博士らによって人の心臓から「心房性ナトリウム利尿ペプチド(ANP)」と命名された新しいホルモンが発見され、1988年には「B型ナトリウム利尿ペプチド(BNP)」が発見されました。心不全ではANPとBNPはそれぞれ心房と心室から大量に分泌され、ともに利尿や血管の拡張作用により体液量や血圧を調節する重要なホルモンであることが明らかとなり、心臓は内分泌臓器でもあることが判明しました。現在、ANPは急性心不全の治療薬として、血中BNPは心不全の診断マーカーとして臨床現場で活用され、心不全の診断と治療に大きな進歩をもたらしました。
Well TOKK vol.36 2025年1月7日発行時の情報です。