Wellness講座「新たな国民病『慢性腎臓病』って?」

新たな国民病『慢性腎臓病って?
新たな国民病『慢性腎臓病って?

血液中の老廃物や有害物質を濾過(ろか)して体外へ排出する役割を担う腎臓。他にも、腎臓は健康に欠かせない重要な働きをしているため、その機能が低下すると全身にさまざまな病気を引き起こすリスクが発生しますが、初期は自覚症状がほとんどないため注意が必要です。
腎臓の働きや、近年注目の集まる「慢性腎臓病」について学んで、腎臓病を予防しましょう。
監修:関西健康・医療創生会議

<教えてくれるのは>

平田結喜緒(ひらた ゆきお) 先生
(公財)兵庫県予防医学協会副会長・健康ライフプラザ健診センター長。前先端医療センター病院長。東京医科歯科大学名誉教授。専門分野は内分泌代謝学、高血圧、分子血管生物学。日本内分泌学会評議員・理事、日本心血管内分泌代謝学会評議員・理事、日本心脈管作動物質学会評議員・理事、日本糖尿病学会評議員、日本高血圧学会評議員などを歴任。

平田結喜緒(ひらた ゆきお) 先生

(公財)兵庫県予防医学協会副会長・健康ライフプラザ健診センター長。前先端医療センター病院長。東京医科歯科大学名誉教授。専門分野は内分泌代謝学、高血圧、分子血管生物学。日本内分泌学会評議員・理事、日本心血管内分泌代謝学会評議員・理事、日本心脈管作動物質学会評議員・理事、日本糖尿病学会評議員、日本高血圧学会評議員などを歴任。

Q.腎臓のしくみと働きについて教えてください。

A.

腎臓は握りこぶしくらいの大きさで、そら豆に似た形の臓器です。腰の少し上のあたりの背中側に、背骨をはさんで左右に1つずつあります(図1)。全身を巡る血液には、活動をすることによって生じた老廃物が多く溶け込んでいますが、腎臓はこの血液から老廃物を濾過して取り除き、尿として排せつする役割があります。
濾過の仕事をするのが、腎臓の「糸球体」です。糸球体は極細の毛細血管が毛玉のように丸く絡み合った直径0.2㎜ほどの小さな装置で、片方の腎臓に約100万個あります。糸球体の毛細血管の壁がフィルターとなり、赤血球や白血球、大きな蛋白質(たんぱくしつ)などは残され、小さな物質は水分と一緒に通過します。これが尿の元になる「原尿」で、1日に約150ℓ作られます。しかし、原尿には体に必要な物質もたくさん含まれているため、原尿が「尿細管」という細い管を通るあいだに、体に必要な物質が水とともに再吸収されます。最終的に原尿の99%が再吸収され1.5ℓくらいの尿になった後、腎臓の内側にある腎盂(じんう)に集められ、尿管を通って膀胱(ぼうこう)へ、そして体の外へ排せつされます。

また、腎臓には血液中の老廃物を濾過し尿として排せつする以外に、次のような大切な働きがあります。

●血圧を調節する
腎臓は、塩分と水分の排出量をコントロールすることで血圧を調節しています。また、レニンという血圧を上げるホルモンを分泌することでも、血圧を正常に保つ働きをしています。

●赤血球の生成を助ける
腎臓から分泌されるエリスロポエチンというホルモンが骨髄に作用して赤血球の生成を促します。腎臓の働きが悪くなるとエリスロポエチンが出なくなり、赤血球が十分に作られず貧血になります。

●体内の電解質や体液量のバランスを調節する
体内にあるナトリウムやカリウム、カルシウムなどの電解質の濃度は一定に保たれています。腎臓は排せつや再吸収により血液中の電解質や体液量の調節を行うほか、酸性・アルカリ性のバランスを保つ役割もあります。

●カルシウムの吸収を助ける
腎臓の働きでビタミンDが活性化され、カルシウムの吸収を促進したり、骨の発育を促したりします。

Q.「慢性腎臓病(CKD)」とはどんな病気ですか?

A.

「慢性腎臓病(CKD:Chronic Kidney Disease)」は、単一の病名でなく、腎臓の障害もしくは腎機能低下が慢性的に続く病気の総称で、糖尿病性腎症、慢性糸球体腎炎、腎硬化症などが含まれます。CKDは進行すると末期腎不全につながるだけでなく、心血管病の発症や死亡のリスクにもなります。日本のCKD患者は約1,480万人※いると推計され、その割合は20歳以上の約7人に1人、80歳代では2人に1人にのぼります。さらに、人工透析を受けている人は34万人を超えており、CKDはもはや国民病であるといえます。
CKDは早期に発見・治療すれば回復します。しかし、初期には自覚症状がほとんど現れません。むくみ、だるさ、貧血、食欲がない、吐き気があるなどの症状が認められた場合には、すでにCKDがかなり進行している可能性があります。腎機能がある程度まで低下してしまうと、元に戻すことは難しく、末期腎不全に至った場合は人工透析や腎移植が必要となるので注意が必要です。
※日本腎臓学会 編「エビデンスに基づくCKD診療ガイドライン2023」より

Q.CKDはどのように診断されますか?

A.

CKDの初期は自覚症状から見つけるのは難しいため、定期的に健診を受けることが大切です。CKDは健診の尿検査と血液検査で調べられます。

❶尿検査で蛋白尿(微量アルブミン尿を含む)などの尿の異常がある場合
❷血液検査で血清クレアチニン値をもとに推算した糸球体濾過量(eGFR)※が60㎖/分/1.73m²未満の場合

❶と❷のいずれか、または両方が3カ月以上続く場合、CKDと診断されます。
※eGFRは血液中の老廃物の1つである血清クレアチニンを年齢と性別から算出した腎臓の濾過する働きを示す数値です。eGFRは腎臓の機能が今どれくらいあるのかを示す値で60未満であれば腎機能低下を示します。

Q.CKDのステージ分類はどのように決められるのですか?

A.

CKDを放置すると徐々に腎不全に進行していくため、腎機能の低下の程度を5つのステージに分類しています(図2)。これはeGFR値(G)と蛋白尿の量(A)の区分を合わせて評価します。eGFRが低値、または蛋白尿が多いとステージが上昇します。ステージ5(G5)は末期腎不全で、透析や腎移植が必要となります。ステージに応じて、かかりつけ医から腎臓専門医のいる医療機関(腎臓内科、泌尿器科)を紹介してもらう必要があります。

\ COLUMN /
CKDと心血管病との関連性

脳卒中や心筋梗塞といった心血管病はCKD患者の死亡の主要な原因となります。また、心血管病ではCKDを合併する頻度が高くなり、CKDのステージが上昇(進行)すると心血管病による死亡リスクも増加することから、CKDは心血管病のリスク因子といえます。このようにCKDと心血管病は重複して相互に発症しやすいことから「心腎連関」といわれています(図3)。

こんな人は要注意!

肥満・運動不足・飲酒・喫煙・ストレスなどの生活習慣は、CKDの発症に大きく関与しています。普段から減塩や規則正しくバランスのとれた食事、禁煙、適度な運動を心掛け適正な体重維持に努めましょう。メタボリック症候群や糖尿病、高血圧、脂質異常症などの生活習慣病がある人は、生活習慣の改善に加え、必要に応じて医療機関を受診して治療する必要があります。また、年齢とともに動脈硬化が進み腎機能が低下するため高齢者、家族に腎臓病の人がいる場合や、過去に腎臓病にかかったことがある人も要注意です。

腎移植と透析

末期腎不全(G5)の治療法は現在のところ透析療法と腎移植だけです。腎移植は唯一の根本治療ですが、腎臓を提供する人(ドナー)が少ないために、現在全国で約34万人が透析療法(主に血液透析)を受けており、毎年約4万人が新たに透析を始めています。血液透析の場合は最低週に3日、1回4〜5時間かけて血液を人工透析器で浄化する必要があり、患者さんへの身体的負担が大変大きいです。少しでも透析を受けるのを避けるためには、CKDにならないように生活習慣を見直し、また健診でCKDを早期に発見して対応することが大切です。

Well TOKK vol.34 2024年7月2日発行時の情報です。