wellness講座「女性ホルモンってなに?」

ホルモンは私たちの健康に欠かせないもの。特に女性が大きな影響を受けている女性ホルモンは月経と深い関係があり、初経から閉経までの間に大きく変化し、年齢ごとに起こりやすい病気があります。更年期になると心身の不調を訴える人も少なくありません。女性ホルモンとは何かを知って、トラブルをうまく乗り切りましょう!

ホルモンとは?

「ホルモン」はギリシャ語で「興奮させる物質」を意味する造語です。ヒトの体内では100種類以上のホルモンが作られています。ホルモンは血液中に分泌され、微量で成長や発育、生殖、エネルギー代謝、恒常性の維持など、様々な体の大切な機能をうまく調節しています。ホルモンの分泌は多すぎても少なすぎても健康に影響があらわれるので、うまくバランスがとれるように調節されています。

2種類の女性ホルモン

女性の体は、卵巣から分泌されるエストロゲン(卵胞らんぽうホルモン)とプロゲステロン(黄体おうたいホルモン)という2種類の女性ホルモンの影響を大きく受けています。エストロゲンは妊娠の準備をし、プロゲステロンは妊娠を助けるホルモンです。特にエストロゲンは「女性を創るホルモン」と言われ、妊娠・出産だけでなく、女性らしい体型や乳房の発育、肌のツヤやハリをもたらし、脳や血管、骨などを健康に保つのにも役立っています(図1)。

女性ホルモン分泌の2つの大きな波

#1 月経や排卵を起こす毎月の波

2つの女性ホルモンは、約28日周期で起こる月経と深く関係しながら分泌量が変化します(図2)。エストロゲンは月経から排卵の間に分泌量が増加し、プロゲステロンは排卵から次の月経までの間に分泌量が増加します。月経も女性の体調も、この微妙なホルモンバランスの上に成り立っています。心身の不調や精神的ストレスなどの影響で無月経や月経不順になることもあります。また、月経が始まる3~10日くらい前にはイライラや情緒不安定などの精神的症状や胸の張り、むくみ、体重増加などの身体的症状が起こり、PMS(月経前症候群)と呼ばれます。症状や期間は個人差がありますが、PMSはプロゲステロンの増加が関係していると考えられ、月経が始まると一気に症状が消失してしまうのもPMSの特徴の1つです。

#2 初経から閉経までの一生の波

エストロゲンは初経を迎える12歳頃(思春期)から分泌が始まり、20代から30代(性成熟期)にピークを迎え、40代頃から分泌が減り始め、50歳前後で閉経します(図3)。閉経を狭んだ前後約10年を更年期と言います。更年期には急激にエストロゲンが減少するので、その変化が心と体に大きな影響を与えます。

多くの女性に起こる更年期症状

更年期には体に様々な不調が現れます。個人差はありますが、約9割の女性が何らかの不快症状を感じているとされています。これを「更年期症状」と言い、この症状が家事や仕事に支障をきたすほど重いものを「更年期障害」と言います。更年期障害は大きく4つの症状に分けられます(表)。

更年期症状が起こるしくみ

エストロゲンは脳の視床下部の指令で分泌されます。更年期になってエストロゲンの分泌が急激に減ると、視床下部は、卵巣に対してもっとエストロゲンを分泌するように強い指令を出しますが、卵巣の機能が低下しているため、十分に分泌されず、視床下部は混乱してしまいます。すると、同じ視床下部にある自律神経の調節もうまくいかなくなり、発汗や動悸、のぼせなど、自律神経失調症状が表れてきます。

男性にもある更年期

男性にも更年期症状があります。40歳以降、年齢とともに男性ホルモンであるテストステロンの分泌が徐々に低下することが原因で、それに伴って臨床症状があると男性更年期、あるいは「加齢男性性腺機能低下(LOH)症候群」と言います。主な症状として、精神神経症状、身体的症状、性機能関連症状の3つがあります。
男性ではテストステロンの分泌低下が緩やかなので気付かないことが多いですが、急激に低下すると日常生活にも支障を来すようになります。このような場合は、泌尿器科の専門医に相談してください。男性の更年期障害の多くは生活習慣の改善だけで良くなりますが、重症の場合はホルモン補充療法を選択することもあります。

女性ホルモンの2つの波をうまく乗り切ろう

月経のトラブル

脳の視床下部はストレスの影響を受けやすく、過剰な身体的・精神的ストレスが続くと、排卵障害が起きたり月経が止まることもあります。例えば、激しいトレーニングや過度なダイエットを行った結果、無月経や月経不順になることもありますので、気を付けましょう。また多くの女性がイライラや体調不良などのPMSで悩んでいます。そういう方は婦人科医に相談しましょう。よく処方される低用量ピルは排卵を止めることで、プロゲステロンの分泌が抑えられ、女性ホルモンの波も小さくなるので、PMS症状が緩和されます。

更年期症状・障害

女性ホルモンの減少による更年期は、歳を取れば誰でも起こることなので避けることはできません。対策には生活習慣の改善が大切です。50歳前後は家庭的にも社会的にもストレスが増える時期。できるだけストレスを減らす工夫をして、十分な睡眠と休養をとり、散歩や軽い運動を続けましょう。バランスのとれた食事も大切です。大豆イソフラボンは、エストロゲンに似た作用があるとされるので、大豆製品(豆腐、納豆など)はおすすめです。
更年期症状と間違いやすい病気として甲状腺機能低下症、うつ病があるので注意が必要です。更年期障害が強い場合は我慢せず婦人科医を受診しましょう。薬物療法(ホルモン補充療法、漢方)が効果的とされますので、よく医師と相談して治療法を選択しましょう。また精神神経症状が強い場合は精神科や心療内科の専門医を受診するのが良いでしょう。

エストロゲンには肌のうるおいを保ち、丈夫な骨を維持し、動脈硬化を防ぐ働きもあります。若々しく健康でいるためにも、女性ホルモンのバランスが保てるように健康的な生活習慣を心がけましょう。

監修:平田結喜緒ひらたゆきお先生

(公財)兵庫県予防医学協会副会長・健康ライフプラザ健診センター長。前先端医療センター病院長。東京医科歯科大学名誉教授。専門分野は内分泌代謝学、高血圧、分子血管生物学。日本内分泌学会評議員・理事、日本心血管内分泌代謝学会評議員・理事、日本心脈管作動物質学会評議員・理事、日本糖尿病学会評議員、日本高血圧学会評議員などを歴任。

Well TOKK vol.23 2021年10月4日発行時の情報です。