wellness講座「かゆみを伴う皮膚の病気」

皮膚がかゆくてたまらない、という経験は誰でもあると思います。
実はかゆみは皮膚に異物が付いたことを知らせ、異物から体を守るために起こる防衛反応なのです。
また、かゆみは体の異常を知らせるサインであることもわかってきました。
かゆみのメカニズム、かゆみを伴う皮膚の病気とその対策方法を探ってみましょう。

皮膚のバリア機能とかゆみのメカニズム

皮膚は表皮、真皮、皮下組織からなっています。表皮には角質細胞が積み重なった角層という部分があり、その外側は汗と皮脂が混ざり合った皮脂膜に覆われています。これらが細菌や植物、金属、化粧品などアレルギーの原因となる物質(アレルゲン)の侵入を防いだり、皮膚から水分が蒸散するのを防いだりしています。これを皮膚のバリア機能といいます(図1の左)。
ところが、皮膚が乾燥したり、皮膚をこすったりかいたりすると皮脂膜が薄くなり、角層がめくれてバリア機能が低下します。そうすると、かゆみの刺激が神経に伝わりやすくなります。かゆみを感じて脳に伝えるのはC-線維と呼ばれる神経線維です。真皮の中には肥満細胞という細胞(体の肥満とは関係ありません)があります。表皮が細菌やアレルゲンなど外界から刺激を受けると、肥満細胞からヒスタミンが放出され、これがC-線維に作用してかゆみを起こしたり、血管に作用して皮膚が赤く腫れたりします。外界刺激が続くと、C-線維が角層近くまで伸びてきて、弱い刺激でもかゆみを覚えるようになり、かいてしまいます。
かきすぎると皮膚のバリア機能が壊れて炎症が起きてしまい、皮膚のダメージがひどくなってしまいます(図1の右)。

かゆみの原因と皮膚の病気

かゆみの原因には大きく分けて、皮膚の病気、臓器の病気、薬(化学物質)を内服したり、皮膚に塗ったりすることで起こるものがあります。よく見られるかゆみを伴う皮膚の病気をご紹介しましょう。

アトピー性皮膚炎

何かの刺激やアレルゲンに対して皮膚が過敏反応し、湿疹と強いかゆみを繰り返します。湿疹はひじやひざの内側などに左右対称に現れます(図2)。かきすぎて出血し、それが化膿して周辺に広がると痛みも起こります。乳幼児期は皮膚がジクジクして赤く腫れ、小児期以降では鳥肌のようにザラザラした皮膚、大人では皮膚がゴワゴワしてこけのように厚くなるなど、年齢によって湿疹の特徴や分布が変わります。多くの場合、アトピー素因と呼ばれる体質を持つとされています。アトピー素因は、過去に気管支ぜんそくやアレルギー性鼻炎・結膜炎・アトピー性皮膚炎にかかったことがある、あるいは家族にアトピー性皮膚炎の人がいると発症しやすい体質とされます。原因物質としてハウスダストや食べ物、衣類、洗剤などが挙げられます。

湿疹(皮膚炎)

皮膚の炎症を湿疹または皮膚炎と呼びます。皮膚がかゆく赤くなり、大小のブツブツ(丘疹きゅうしん)や小さな水ぶくれ(水疱すいほう)ができます。一過性の急性湿疹は早期治療によって改善しますが、放置して症状が長引くと皮膚が分厚く変化し慢性湿疹になります。特定の刺激物質やアレルゲンに触れることで起きる「かぶれ(接触性皮膚炎)」も湿疹と呼ばれます。正常な皮膚と患部との境目がくっきりしているのがかぶれの特徴です。

白癬はくせん(水虫)

カビの一種である白癬菌の感染により起こるもので、特に足にできるものを俗に水虫といいます。かゆみが強いのは足の裏と体の感染です。足の指の間、足の裏では小さな水泡がただれてかゆみが生じたり、赤くなって白くふやけたりします。体では赤いブツブツから赤い輪となって広がり、激しいかゆみを伴います(俗に「ぜにたむし」と呼ばれます)。白癬菌は高温多湿の環境で増殖するため、夏になると症状が悪化します。

じんましん

皮膚に赤い盛り上がり(膨疹ぼうしん)ができ、激しいかゆみを伴います。多くの場合、膨疹は数時間で消えてかゆみもなくなります。かけばかくほど症状は悪化し、膨疹は広がります。原因が特定できない突発性のものと、原因がはっきりしている刺激誘発型のものがあります。刺激誘発型には特定の食物、植物、薬品などに含まれるアレルゲンによるものや、物理的なもの(摩擦、寒冷・温熱、日光など)があります。

あせも

大量に汗をかき、汗を排出する管や出口が一時的に詰まり、周囲の皮膚組織を刺激して起こる炎症です。汗をかきやすい首、脇の下、ひざやひじの裏側、股間などにかゆみのある赤く小さな発疹が現れます。

虫刺され

蚊、ノミ、ダニなどに皮膚を刺され、毒性のある物質が体の中に入るとアレルギー反応を起こすために、腫れやかゆみが起きます。虫に刺されたりまれたりした直後からかゆみ、発赤、じんましんなどが出現します。最も多い蚊によるものなら数十分から数時間で軽快します。

バリア機能を低下させないためのセルフケア

かゆみを伴う皮膚の病気は種類も多く、原因も様々です。予防するには、原因が明確なものはその原因を遠ざける必要がありますが、一般的には、皮膚のバリア機能を低下させないために皮膚を清潔にし、軟膏、クリーム、ローションなどの保湿剤で皮膚を保護するセルフケアが大切です。

肌にやさしい入浴法

皮膚の表皮は厚さが0.2ミリほどで、強くこすると簡単に壊れます。体を洗う時は、刺激の弱いボディーソープを泡立て、その泡でなでるように洗いましょう。ボディーソープが体に残らないように気をつけてください。入浴直後は肌は潤っていますが、皮脂膜は落ちており、水分が急速に失われていきます。保湿剤を使って、皮膚バリアを保護して乾燥を防ぐようにしましょう。

病気によって対応も変わる

アトピー性皮膚炎や湿疹には皮膚の保湿が大切ですが、水虫は湿気を好むので患部を乾燥させるなど、それぞれの病気に対応したケアが大切です。薬を内服している人は薬疹にも注意しましょう。
かゆみを伴う皮膚の病気が、なかなか治らなかったり悪化したりする場合は皮膚科専門医を受診しましょう。また皮膚に目立った異常がないのに全身のかゆみを伴う皮膚掻痒症そうようしょうや、腎臓病、肝臓病、糖尿病などの基礎疾患による場合もありますので、かかりつけ医に相談してください。

夏の対策

夏は肌の露出が多くなり、紫外線が強く、汗もかきやすくなります。アトピー性皮膚炎や湿疹も悪化しがちです。蚊や虫も増えますので、肌の弱い人はケアをしっかり行い、体調管理にも気をつけてください。

監修:平田結喜緒ひらたゆきお先生

(公財)兵庫県予防医学協会理事・健康ライフプラザ健診センター長。前先端医療センター病院長。東京医科歯科大学名誉教授。専門分野は内分泌代謝学、高血圧、分子血管生物学。日本内分泌学会評議員・理事、日本心血管内分泌代謝学会評議員・理事、日本心脈管作動物質学会評議員・理事、日本糖尿病学会評議員、日本高血圧学会評議員などを歴任。

Well TOKK vol.22 2021年7月2日発行時の情報です。