wellness講座「快眠は生活習慣から」

睡眠は食事、運動とともに心身の健康に欠かせない3原則の1つ。健やかな睡眠が得られなければ活動的な生活が送れないばかりか、うつ病や生活習慣病などにつながり、心身に支障をもたらす原因にもなります。快眠を得るために、睡眠を量(時間)、質、タイミングの3つの観点から理解し、生活習慣をみつめ直してみましょう。

日本人は睡眠時間が不足

2018年の経済協力開発機構(OECD)加盟国の15〜64歳の平均睡眠時間によると、日本人は7時間22分。加盟30カ国のうち27カ国の睡眠時間は8時間を超えており、日本人の平均睡眠時間は最も短くなっています。シフト勤務の増加や長い通勤時間、受験勉強などのほか、深夜テレビ、携帯電話、インターネット、電子ゲームなどのために、睡眠時間が削られています。心配なのは子どもたちの遅寝、睡眠不足。2015年に行われた環境省の大規模調査によると、3歳児の約30%が午後10時以降に就寝し、約7%は睡眠時間が10時間未満の寝不足状態とされます。子どもの場合、睡眠不足は成長の遅れや注意力・集中力の低下などのほか、大きくなってから生活習慣病になるリスクが高まります。

質の良い睡眠がとれていますか?

睡眠は時間の長さだけでなく、質も大切です。質の良い睡眠とは、①睡眠-覚醒のサイクルがほぼ規則的で、昼と夜のメリハリが明瞭。②寝床に就いてから、時間をかけすぎずに入眠できる。③必要な睡眠時間が安定して取れていて、途中で目が覚めることが少なく、熟眠感がある。④朝は気持ちよくすっきり目覚め、スムーズに起床して行動できる。⑤日中に強い眠気に襲われたり意図しない居眠りにおちいったりせず、良好な心身の状態で過ごせる、といったことが挙げられます。このような睡眠が取れていない方は、一度、ご自分の睡眠を見直してみるといいでしょう。

睡眠のメカニズム

起きて活動していると脳に疲労がたまり、睡眠欲求が強くなりますが、眠ると睡眠欲求は減少していきます。一方、体の中には体内時計があり、これが覚醒力をもたらします。しかし、目覚めて14〜16時間経つとメラトニンというホルモンが分泌されて覚醒力は低下し、再び眠気を感じるようになります。
睡眠にはレム睡眠とノンレム睡眠があります。レム睡眠は眼球が素早く動いている状態(Rapid Eye Movement=REM)で、体は休んでいますが大脳の活動は活発です。この時、情報や感情、記憶の整理をしていて夢をよく見ます。ノンレム睡眠は大脳の活動が低下した状態です。一晩の睡眠は深いノンレム睡眠から始まり、約90分周期でレム睡眠とノンレム睡眠が繰り返し出現し、朝方に睡眠欲求が低下するにつれてノンレム睡眠の時間が減ってレム睡眠の時間が増えていき、目が覚めます(図1)。

睡眠のタイミングを決める体内時計

覚醒と睡眠のタイミングを決める体内時計は、24時間周期のリズム信号を発振して、概日リズムを形成しています(図2)。概日リズムはホルモンの分泌や生理的な活動を調節し、睡眠に備えてくれます。
多くの人の体内時計は24時間より少し長い周期になっていますが、朝の太陽の光が目から入ることでリセットされます。

睡眠障害と生活習慣病

生活習慣病は食事や運動・喫煙・飲酒・ストレスなど不規則な生活習慣によって引き起こされる病気で、高血圧、糖尿病、脂質異常症、肥満などがあります。生活習慣病の患者さんでは不眠症や睡眠時無呼吸症候群が多いことが知られています。逆に、睡眠障害の患者さんは生活習慣病の発症リスクを高め症状を悪化させる結果、虚血性心疾患や脳血管障害などにかかりやすくなると言われています。睡眠障害と生活習慣病の間には密接な関連があると言ってもよいでしょう。

主な不眠の原因
  • ストレス
  • 体の病気睡眠時無呼吸症候群、むずむず脚症候群、心不全、慢性閉塞性肺疾患、気管支喘息(ぜんそく)、胃食道逆流症、排尿障害、慢性リウマチ、アトピー性皮膚炎、認知症、パーキンソン病、慢性疼痛など
  • 心の病気うつ、不安障害など
  • 降圧薬、甲状腺ホルモン、ステロイドなど
  • 生活リズムの乱れシフト勤務、時差ボケなど
  • 環境因子騒音、光、室温など
原因は様々不眠症

不眠症は、入眠障害、中途覚醒、早朝覚醒などが1カ月以上続き、日中に倦怠(けんたい)感、意欲や集中力の低下、食欲不振などが現れます。不眠の原因はストレス、心身の病気、薬の副作用など様々で(上の表)、原因に応じた対応が必要です。不眠を自分で治せない時はかかりつけ医、あるいは専門医(精神科、心療内科)に相談しましょう。

夜間にしばしば呼吸が止まる睡眠時無呼吸症候群

眠り始めると呼吸が止まり、目が覚めて呼吸を再開するが、眠り出すとまた止まってしまう。一晩中この繰り返しで熟睡できず、日中に強い眠気に襲われます。さらに高血圧、動脈硬化が進行して心筋梗塞や脳梗塞を引き起こしやすくなります。肥満でイビキがひどい人や睡眠中に呼吸が止まる人は、早めに呼吸器内科や専門の医療機関を受診してください。

女性ホルモンの変化が睡眠を乱す女性の睡眠障害

月経前には睡眠が浅くなったり日中の眠気が強くなったりします。妊娠中には日中の眠気や不眠に悩まされ、出産後は授乳や育児による睡眠不足、更年期には不眠になりやすいといった特徴があります。特に出産直後に発症するマタニティブルー(涙もろい、落ち込む、眠れない)が長引く場合には、早めに専門医を受診しましょう。

快眠を得るために

規則正しい生活が快眠の基本

快眠は規則正しい睡眠習慣から生まれます。床に就く時刻が毎日ばらばらだと、快眠は得られません。夜更かしをすると、体内時計がずれてしまい、睡眠時間帯が不規則になったり夜型になったりして快眠が得られなくなります。また、寝床に入ってからも携帯電話でインターネットを見たり、ゲームなどを続けたりすると、光の刺激が目に入ることで脳が興奮して眠れなくなります。寝床には携帯電話を持ち込まないようにしましょう。また体内時計を整えるには毎朝規則正しく太陽光を浴びるのもいいでしょう。

食事は3食、規則正しく

体内時計を整えるには遅い夕食や夜食は控えて、毎日規則正しく食事を取りましょう。しっかり朝食を取ることで、心と体を目覚めさせ、元気に1日を始めることができます。就寝前のカフェインを多く含むコーヒーや緑茶は眠気を妨げます。また、寝酒は眠りを浅くし、喫煙も睡眠の質を低下させます。

適度な運動を習慣に

1日30分以上の歩行を週5日以上行っている人や、週5日以上運動をしている人は睡眠障害が少ないとされます。適度な有酸素運動(早足の散歩、軽いランニング)を習慣にしましょう。ただ、激しい運動や就寝直前の運動はかえって睡眠を妨げることがあるので、気を付けましょう。

入浴の時間がポイント

就寝の2~3時間前にお風呂に入るのがいいでしょう。入浴で上がった体温が下がり始める頃に床に就くと入眠しやすくなります。就寝直前の入浴はかえって寝付きを悪くしてしまうことがあるので注意してください。お風呂の適温は人にもよりますが、38度のぬるめのお湯で25〜30分、42度の熱めのお湯なら5分程度がおすすめです。

監修:平田結喜緒ひらたゆきお先生

(公財)兵庫県予防医学協会理事・健康ライフプラザ健診センター長。前先端医療センター病院長。東京医科歯科大学名誉教授。専門分野は内分泌代謝学、高血圧、分子血管生物学。日本内分泌学会評議員・理事、日本心血管内分泌代謝学会評議員・理事、日本心脈管作動物質学会評議員・理事、日本糖尿病学会評議員、日本高血圧学会評議員などを歴任。

Well TOKK vol.21 2021年4月2日発行時の情報です。