wellness講座「高血圧は生活習慣の改善から」

血圧とは、心臓から送り出された血液が血管の壁を押す力のこと。高血圧は成人の日本人に最も多い病気で、約4300万人の患者がいます。血圧が高いまま放っておくと脳卒中や心筋梗塞(しんきんこうそく)、腎臓病などにつながります。このような病気から身を守るためにも高血圧を正しく理解して、対策を立てましょう。

血圧の基礎知識

心臓は生涯にわたって縮んだり膨らんだりを繰り返し、全身に血液を送り出しています。血圧測定のとき、「上が130、下が85」などと言われ、130/85mmHg(以下、mmHgは省略)のように表しますね。「上」は最大血圧(収縮期血圧)のことで、心臓が収縮して血液を大動脈に送り出したときの血圧を意味し、「下」は最小血圧(拡張期血圧)で、心臓が弛緩(しかん)しているときの血圧を指します(下図)。健康な人の血圧は上が120未満、下が80未満です。上が140以上、または下が90以上になると高血圧とされます。医師から高血圧と言われた人の目標血圧は、上が130未満、下が80未満です。
血圧は1日の中でも変動します。普通、眠っている間が一番低く、朝起きてから徐々に上がり始め、活動している昼間は高くなり、夜は下がっていきます。激しい運動をしたり興奮すると血圧は上がります。また、気温の変化によっても血圧は変動します。寒いところでは血管が収縮して血圧が上がり、温かい所では下がります。急激な気温の変化により血圧が大きく変動すると、脳卒中や心筋梗塞の引き金になる危険性があります。冬には洗面所や風呂場などの暖房や、外出時の防寒に気をつけましょう。

高血圧は「サイレント・キラー」

高血圧は、原因が特定できない本態性(ほんたいせい)高血圧と、他に原因があって起こる二次性高血圧に分けられます。高血圧の約9割が本態性高血圧です。本態性高血圧は遺伝的な体質と環境因子が関係していますが、生活習慣を改めることで、ある程度改善したり悪化を防ぐことができます。一方、二次性高血圧は腎臓やホルモンの異常などが原因で起こります。原因を取り除けば血圧は改善する可能性があります。
動脈の壁は強い圧力を受け続けると傷ついたり硬くなったりします。これが動脈硬化です。健康な人でも加齢により少しずつ動脈硬化が進みますが、高血圧の人では動脈硬化がより一層進み、そのため血圧がさらに高くなるという悪循環に陥ります。
高血圧は特有の自覚症状がないために放置されがちですが、気がつかないうちに症状が進行し、ある日突然、脳卒中や心筋梗塞などの合併症を引き起こすことがあります。そのため高血圧は「サイレント・キラー(静かな殺し屋)」とも呼ばれます。特に重大な合併症を下図に示します。

自分の血圧を知り、生活習慣を見直そう

血圧を下げ、高血圧の合併症から身を守るためにも、日頃から自分の血圧を知り、高血圧をもたらす生活習慣を改善することが大切です。病院やクリニックで測定される血圧(「診察室血圧」)は緊張で上がったり(白衣高血圧)、逆に高血圧なのに下がっている(仮面高血圧)ことがあります。これらを避けるためには、家庭でリラックスした状態で測定する「家庭血圧」が有効です。家庭血圧計を1台、ご自宅に備えることをお勧めします。上腕にカフ(腕帯)を巻いて測るタイプの自動血圧計が最も信頼性が高いです。家庭血圧は診察室血圧よりも5mmHg低値となるので、上が135以上、下が85以上が高血圧とされます。1日2回、起床から1時間以内と寝る前に、毎日同じ条件で測定しましょう。測定値を記録しておけば健康管理の目安になりますし、医師にかかったときの判断材料として役に立ちます。

生活習慣を改善しよう

食事 ── 最大のポイントは減塩食

血圧を上げる最大の原因は食塩です。日本人の1日の食塩摂取量の平均は男性10.8g、女性9.1gです。1日6g未満を目標に減塩食を心掛けてください。香味野菜、香辛料や酢などを使うと食塩を減らすことができます。最近は減塩をうたった食品やしょうゆ、味噌もありますし、スプレー式のしょうゆ入れを使えば1回の摂取量が減ります。塩分を多く含むラーメンやうどんなどのつゆを残すようにすると、塩分を半分にすることができます。味噌汁は具だくさんにすれば汁の量が減るので塩分摂取量も減ります。加工食品や佃煮、漬け物は塩分が多く、塩味を感じないパンや麺類にも案外食塩が多く使われているので気をつけてください。加工食品を買うときは食塩相当量の表示を確認する習慣を身につけ、料理のときは計量スプーン等で測るようにしましょう。

野菜、果物は積極的に、動物性脂肪は控えめに

塩分排出効果があるカリウムは緑黄色野菜や果物に多く、血管を広げるカルシウムやマグネシウムは海藻、きのこなどに多く含まれています。肉を食べるときは飽和脂肪酸、コレステロールの多い霜降り肉より赤身を選びましょう。血液を固まりにくくさせ、血流をよくするEPAやDHAが多く含まれる青魚や、多価不飽和脂肪酸の多いナッツ、ヨーグルトのような低脂肪乳製品を取り、動物性脂肪に偏らない、バランスの良い食事を心掛けることが大切です。

肥満

肥満も高血圧を悪化させます。1日3食、規則正しく食事を取り、「腹八分目」を心掛けましょう。普段から体重計に乗り、自分の体重を知ることが大切です。肥満度はBMI〔体重kg÷(身長m)²〕で評価します。たとえば体重70.4kg、身長160cmの人は、70.4÷(1.60×1.60)=27.5となります。この数値が25未満になることを目指しましょう。

運動

定期的な運動は血圧を下げる効果があります。心臓や脳血管に異常がなければ、ウォーキングのような有酸素運動を毎日30分以上行いましょう。歩数計をつけて1日1万歩を目標にしてください。適度な運動により、血管の内側にある内皮細胞から一酸化窒素が分泌されることで血管が広がり、全身の血行が改善します。筋肉量を維持するためには、ストレッチやレジスタンス運動を補助的に組み合わせると良いでしょう。

タバコはやめて、お酒は控えめに

タバコを吸うと血圧が上がり、動脈硬化を進行させます。また、タバコは肺がんや慢性閉塞性肺疾患の原因となります。まわりの人の受動喫煙の影響も小さくありません。健康のためには禁煙が不可欠です。
適量のお酒は血管を拡張させる作用がありますが、過度の飲酒は血圧を上昇させます。1日のアルコールの適量は、男性の場合、ビールなら中瓶1本、日本酒は1合、ウィスキーはダブルで1杯、焼酎は半合、ワインはグラス2杯で、女性はその半分くらいが目安です。
積極的に生活習慣の改善を図っても高血圧が改善しない場合は医師に相談しましょう。

監修:平田結喜緒ひらたゆきお先生

(公財)兵庫県予防医学協会理事・健康ライフプラザ健診センター長。前先端医療センター病院長。東京医科歯科大学名誉教授。専門分野は内分泌代謝学、高血圧、分子血管生物学。日本内分泌学会評議員・理事、日本心血管内分泌代謝学会評議員・理事、日本心脈管作動物質学会評議員・理事、日本糖尿病学会評議員、日本高血圧学会評議員などを歴任。

Well TOKK vol.16 2020年1月7日発行時の情報です。