wellness講座「健康を支える筋肉」

私たちは筋肉のおかげで移動したり運動したりできますが、筋肉には、エネルギーを消費して熱を作り出し体温を維持するといった機能もあります。加齢とともに筋肉の量が減って、筋力も徐々に衰えていきますが、これを防ぐにはどうしたらいいでしょうか。

若いうちから筋肉は衰え始める

筋肉量は20歳頃に比べて、70歳頃には30〜40%低下すると言われています。このように、「加齢に伴って筋肉量が減り、筋力が低下する現象」をサルコペニア(サルコ=筋肉、ペニア=減少)と言います。サルコペニアが進むと立ったり歩いたりしにくくなり、放っておくと歩行困難になることもあります。サルコペニアは高齢者だけの問題ではありません。25〜30歳から始まって徐々に進行していくからです。
サルコペニアは加齢による一次性のもののほか、普段の生活が座りっぱなしで動かない、横になってばかりいる、栄養状態が悪い、がんや心不全、腎不全などの全身的な病気がある、といったことから起こる二次性のものもあります。特に病気が疑われる場合は専門の医師に相談してください。

フレイルとの関係

筋肉量と筋力に注目するサルコペニアに対して、より広い要素が含まれるフレイル(虚弱)という言葉も最近よく使われます。フレイルは年齢とともに全身の予備能力、筋力や心身の活力が低下する、介護が必要になりやすい状態を指します。フレイルは早めに気づいて適切な運動、食事を心掛ければ、衰えた機能をもとに取り戻すことができる可能性があります。フレイルには精神的・社会的な要因もありますが、ここでは身体的フレイルを取り上げます。フレイルかどうかを判断する評価法を表1に紹介します。3項目以上該当する場合、フレイルとされます。

表1 フレイルの評価法(J-CHS基準*)
出典:*長寿医療研究開発費事業25-11「フレイルの進行に関わる要因に関する研究」班

サルコペニアはどんな兆候が現れる?

日常生活で下の図のような兆候がある方はサルコペニアかもしれません。

指輪っかテスト

サルコペニアの簡便なチェック法があります。両手の親指と人差し指で輪を作り、ふくらはぎのいちばん太い部分を囲みます。ふくらはぎが太くて囲めなければサルコペニアの危険度は低く、隙間ができる場合は危険度が高いと考えられます。

サルコペニアの危険度を自己チェック

健康を支える筋肉を維持しよう

若い頃から筋肉量や筋力を向上させるための運動を適切に行うことでサルコペニア・フレイルを予防したり進行を遅らせることができます。また、筋肉のもととなるたんぱく質やアミノ酸、ビタミンDなどを積極的に取ることも欠かせません。

運動編 ── 筋力と筋持久力をつける

運動にはレジスタンス(抵抗)運動と有酸素運動があり、両方を組み合わせるとサルコペニアに効果的とされます。
レジスタンス運動は筋肉に最大筋力に近い負荷をかけるトレーニングで、ダンベルやトレーニングマシンを使う方法、スクワットや腕立て伏せなど自分の体重を負荷として行う方法などがあります。レジスタンス運動を繰り返すと筋肉の断面積が太くなり、筋力が上がります。
有酸素運動は筋肉に持久力をつけるトレーニングで、最大筋力の4割程度の負荷をかけ、酸素を取り入れながら続ける運動です。ウォーキング、ジョギング、サイクリング、水泳などがあります。
レジスタンス運動も有酸素運動も自分に合ったトレーニングを選べばいいのですが、続けることが何よりも大切です。
なお、こちらで筋肉を鍛える体操をご紹介していますので、参考にしてください。

簡単なスクワット
ウォーキングのポイント

食事編 ── たんぱく質、アミノ酸などをしっかり取る

良質のたんぱく質を

いくら運動しても、栄養をしっかり取らなければサルコペニア・フレイルの予防や改善につながりません。特に筋肉はたんぱく質でできているので、良質のたんぱく質を取ることが大切です。肉、魚、牛乳・乳製品、卵などの動物性たんぱく質と大豆・大豆製品などの植物性たんぱく質をなるべく毎食組み合わせ、バランスのよい食事をするようにしましょう。
多くの高齢者は健康の維持に必要なたんぱく質が十分摂取できていないと言われます。健康な人は良質なたんぱく質を1日に体重1kgあたり1〜1.2g、サルコペニアの人は1.2〜1.5g摂取しましょう。若い人でもダイエットで野菜中心の食事をしているとたんぱく質が不足し、サルコペニアになりやすいので注意が必要です。ただし、慢性腎臓病、糖尿病など腎機能の低下やたんぱく尿が見られる人の場合、たんぱく質の取り過ぎは腎障害の進行を促進するリスクがあるので、かかりつけの医師や管理栄養士に相談してください。

アミノ酸、ビタミンD、カルシウムも

筋肉のたんぱく質を構成しているアミノ酸も欠かせません。特に体内で作ることができない必須アミノ酸の摂取がサルコペニアを防ぐ上で重要です。中でも必須アミノ酸の一種ロイシンはたんぱく質の合成を促進する作用があると言われています。ロイシンを軽い運動とともに継続的に摂取すると筋肉量と筋力がより効率よく向上し、運動能力が改善するという報告があります。ロイシンはマグロ、カツオ、アジ、サンマなどの魚、牛肉、鶏肉、卵、牛乳、大豆などに多く含まれています。
ビタミンDやカルシウムの摂取も大切です。ビタミンDはカルシウムの吸収を促進して骨を丈夫にし、筋力を高めます。サケ、カレイ、イワシ、サンマなどの魚、きくらげ、シイタケなどのキノコに多く含まれています。カルシウムは牛乳、チーズ、小魚、ひじき、小松菜、豆腐などに多く含まれています。
なお、ビタミンDは紫外線を浴びることで皮膚でもつくられるので、適度に散歩したり屋外で過ごすといいでしょう。

たんぱく質、アミノ酸、ビタミンD、カルシウムの多い食品
監修:平田結喜緒ひらたゆきお先生

(公財)兵庫県予防医学協会理事・健康ライフプラザ健診センター長。前先端医療センター病院長。東京医科歯科大学名誉教授。専門分野は内分泌代謝学、高血圧、分子血管生物学。日本内分泌学会評議員・理事、日本心血管内分泌代謝学会評議員・理事、日本心脈管作動物質学会評議員・理事、日本糖尿病学会評議員、日本高血圧学会評議員などを歴任。

Well TOKK vol.15 2019年10月2日発行時の情報です。