wellness講座「カラダの健康は歯の健康から」

味覚の秋。おいしく食べるには健康な歯が必要ですが、日本人は長寿のわりに歯の寿命が短いと言われます。歯を失う大きな原因は虫歯と歯周病。これらを引き起こす口の中の細菌は多くの種類があり、全身の健康にも影響を及ぼすことがわかってきました。

虫歯と歯周病

虫歯菌は、飲食物の糖分を餌にして歯の表面にプラーク(歯垢〈しこう〉=細菌の塊)を作ります。歯と歯の間や歯の溝のプラークは歯磨きで十分に取れないことが多いため、そこで生み出された酸が歯の表面のエナメル質を溶かすと虫歯になります。
一方、プラーク中の歯周病菌の刺激によって起こる歯茎の慢性の炎症が歯周病です。歯周病は大きく歯肉炎と歯周炎に分けられます。
歯茎の周囲にプラークがたくさん溜まったり、歯茎の抵抗力が弱まったりすると、歯茎から出血するようになります。また、歯茎が腫れたり、口臭が強くなることもあります。これらの症状が慢性化した状態が歯肉炎です。
この段階で適切な治療をすれば治りやすいのですが、初期にはほとんど自覚症状がないのでしばしば放置されます。すると、歯と歯茎の間の溝が次第に深くなり、歯周ポケットと呼ばれる袋状の隙間ができます。酸素を嫌う歯周病菌にとってここは住み心地がよく、プラークはさらに成熟して毒性を高め、歯を支える歯槽骨(しそうこつ)まで溶かし始めます。やがて歯槽骨が大きくやせて、ついに歯が抜けてしまいます。これが歯周炎です。

健康な歯と歯茎
虫歯:歯のエナメル質の一部が酸で溶ける
歯肉炎:歯と歯茎の間で炎症が起きる
歯肉炎:歯周ポケットが大きくなり、歯を支えることができなくなる

歯周病のセルフチェック

厚生労働省と日本歯科医師会は「8020運動」を提唱しています。「80歳になっても自分の歯を20本以上保とう」という運動です。歯が20本以上あれば、ほとんどの食物を噛みくだくことができ、 おいしく食べられます。
日本臨床歯周病学会が作成した「歯周病のセルフチェック」で、ご自身の状態を確認してみましょう(下の表)。

症状判定

  • ♢3つあてはまる
    油断は禁物です。ご自分および歯医者さんで予防するように努めましょう。
  • ♢6つあてはまる
    歯周病が進行している可能性があります。
  • ♢全てあてはまる
    歯周病の症状がかなり進んでいます。
  • 朝起きたとき、口の中がネバネバする。
  • ブラッシング時に出血する。
  • 口臭が気になる。
  • 歯肉がむずがゆい、痛い。
  • 歯肉が赤く腫れている。(健康的な歯肉はピンク色で引き締まっている)
  • かたい物が噛みにくい。
  • 歯が長くなったような気がする。
  • 前歯が出っ歯になったり、歯と歯の間に隙間がでてきた。食物が挟まる。
※日本臨床歯周病学会ホームページより

歯周病は全身の健康に影響を及ぼすことも

歯周病になると、歯を失うだけでなく、歯周ポケットで増殖した歯周病菌が歯茎の毛細血管に入り、血流に乗って全身に運ばれ、様々な病気を引き起こしたり悪化させたりすることがあります。歯周病と関係する病気を挙げてみましょう。

糖尿病

歯周病は糖尿病の合併症の1つと言われ、糖尿病の人は歯周病になりやすく、また逆に、歯周病が糖尿病を悪化させることも明らかになってきました。歯周病が重度の場合、歯周病治療によって糖尿病が改善します。

動脈硬化

血液の中に侵入した歯周病菌は、動脈硬化を誘導する物質を出したり血管を狭くしたり詰まらせたりして、狭心症(きょうしんしょう)や心筋梗塞(しんきんこうそく)、脳梗塞につながることがあります。

関節リウマチ

関節リウマチは、免疫が自分の関節組織を異物として攻撃する病気です。歯周病菌が関節リウマチを発症させたり悪化させることがあります。

早産、低体重児出産

歯周病菌は早産や低体重児出産の危険性を高める可能性があります。

誤嚥性ごえんせい肺炎

免疫力の衰えた高齢者などの場合、誤って歯周病菌が唾液(だえき)や食べ物とともに肺に入ると、肺炎を引き起こすことがあります。

虫歯と歯周病の予防

虫歯や歯周病の予防は、正しく、ていねいな歯磨きが基本です。短い時間、力いっぱいゴシゴシやっても効果はありません。また、歯ブラシだけでは磨き残しができるので、歯間ブラシやデンタルフロス(歯間を清掃する糸)なども使いましょう。どんな磨き方がいいかは歯の状態によっても違うので、歯医者さんで指導を受けてください。
特に歯周病はセルフケアだけでは防げません。定期的に歯医者さんに行って、自分では取れないプラークや歯石(しせき:プラークが固まったもの)を取り除いてもらうことが、歯と歯茎の健康維持につながります。

食事は栄養のバランスに気をつけて、よく嚙んで食べることが大切です。そうすれば唾液もたくさん出てきます。ストレスや喫煙は歯周病を悪化させる原因となります。
歯はものを食べるためだけでなく、人と会話をしたり笑顔で気持ちを伝える上でも大事な役割を果たしています。きちんと管理していつまでも健康な歯を保ちたいですね。

口臭の原因は舌苔と歯周病

強い口臭のほとんどは舌苔(ぜったい)や歯周病が原因です。
唾液の分泌が減ったり口の中が乾燥したりするとドライマウス(口腔乾燥症:こうくうかんそうしょう)になり、舌が痛い、口の中がネバネバする、食べたりしゃべったりしにくい、などの症状が出ます。また、口の中の食べカスを洗い流す作用や細菌の増殖を抑える作用が衰え、虫歯や歯周病になりやすくなります。
ドライマウスになると、舌苔と言って、舌に細菌が繁殖して白や黄色の苔状のものがよくできます。口臭が気になる方は、歯周病の治療とともに、口の中が乾燥しないように心掛け、舌ブラシなどを使って舌も清潔に保ちましょう。よく嚙んで食べたり、しゃべったりすると、唾液が出てきます。
また、下の図のように、顔の周辺にある唾液腺(だえきせん)をマッサージすると、唾液の分泌がよくなります。

唾液腺マッサージ
耳下腺(じかせん)
人差し指を耳たぶの下あたりに当てて、後ろから前へグルグル回すように押します
顎下腺(がっかせん)
親指をあごの骨の内側に当て、耳の下からあごの下まで5カ所ぐらいを順番に押します
舌下腺(ぜっかせん)
両手の親指をそろえ、あごの真下から舌を突き上げるようにグッと押します
監修:天野敦雄先生

大阪大学大学院歯学研究科長・歯学部長。同大学院歯学研究科口腔分子免疫制御学講座予防歯科学教室教授。日本口腔衛生学会理事。専門は予防歯科、口腔感染症など。

Well TOKK vol.7 2017年10月2日発行時の情報です。