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wellness講座「脳は使えばどんどん活性化する」
物忘れがひどくなった、やる気が起きない、集中力が続かない……こういうことが頻繁に起こるようになったら、脳の機能が低下しているのかも。20代を過ぎると脳の機能は徐々に衰え始めるとも言われていますが、脳を活性化する方法はいくつもあります。普段から実践して元気な脳を保ちましょう。
まず脳を知ろう
大脳
脳は大脳、間脳、小脳、脳幹(のうかん)に分類されますが、大脳が脳全体の重さの80%を占めています。大脳の外側を覆う大脳皮質は前頭葉、頭頂葉、側頭葉、後頭葉の4つの領域に分けられます(図1)。前頭葉のうち、思考や創造力、コミュニケーション、集中力など、人間らしい活動をつかさどっているのが前頭前野(ぜんとうぜんや)です。脳は水分を除くと、約60%は脂質でできていると言われています。
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神経細胞
脳には神経細胞が詰まっています。その数は大脳で数百億個、脳全体では千数百億個と言われています。図2のように、1つの神経細胞から樹状突起(じゅじょうとっき)と軸索(じくさく)と呼ばれる突起が伸びています。これらがほかの神経細胞とつながることで複雑なネットワークが形成されます。神経細胞同士がつながる接合部をシナプスと言います。1つの神経細胞には数万個のシナプスがあります。
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脳は使えば使うほどよくなる
脳は新しいことに出会うと、シナプスが他の神経細胞とつながり、新しい回路を作ります。脳を使えば使うほど神経細胞同士がつながっていき、脳のネットワークがより高度になっていきます(図3)。すると情報の伝達が早くなり、記憶力も高まるので、脳の働きがよくなります。計算や思考、記憶などばかりでなく、無意識に体を動かす時にも脳が働いています。
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新しい記憶は海馬に、古い記憶は大脳皮質に保管
記憶には海馬(かいば)と呼ばれる部分が大きな役割を果たしています。中高年になると、ほんの少し前のことは忘れやすくなる一方、幼い頃のことはしっかり記憶に残っていたりします。これは記憶が保管される脳の場所が異なるからです。日常的な出来事や勉強して得た知識はいったん海馬に保管され、整理された後、大脳皮質に保管されると言われています(図4)。
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脳を活性化させる5つのポイント
①脳のエネルギー源はブドウ糖だけではない。注目されるケトン体!
普段、人の体は、食事で摂取した糖質や炭水化物が分解されてできるブドウ糖をエネルギー源として利用していますが、21世紀になって、脳ではブドウ糖だけでなく、ケトン体という物質がエネルギー源になることがわかってきました。体内でブドウ糖が枯渇すると脂肪を燃焼させてエネルギーを得ます。この時、肝臓で脂肪から作られるのがケトン体です。
アルツハイマー型認知症の人の脳は、ブドウ糖をうまく利用できないためにエネルギー不足になるのですが、ケトン体なら利用できます。つまり、アルツハイマー型認知症の人の衰えた脳の機能が回復する可能性もあるのです。
ケトン体をより多く作り、脳を活性化するためには、ご飯・パン・麺類・イモ類などを取り過ぎないことが基本です。甘い果物も控えましょう。タンパク源としては、豆腐や納豆などの大豆製食品、魚や卵、鶏肉などがお勧めです。母乳やココナッツオイルなどに含まれる中鎖(ちゅうさ)脂肪酸を摂取すると、肝臓でより多くのケトン体が作られることがわかってきました。
また、サンマやサバなどの青魚に多く含まれるDHAやEPAは、脳の発育を促進し、脳の機能を高めるとも言われています。肥満や生活習慣病を予防する食事と運動は、アルツハイマー型認知症の予防にも役立つ可能性があると注目されています。
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②積極的にコミュニケーションをする
人とおしゃべりしている時、脳は活発に働いています。コミュニケーションは脳の活性化にとってとても大切で、脳の様々な機能を高めます。一方、スマ―トフォンを惰性で見たり、テレビを漫然と長時間見ていると、脳が受動的になり、機能が衰えていくと言われています。
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③「楽しい」と感じることをする
「楽しい」「うれしい」「ワクワクする」といった感覚を味わっている時、快感を覚えさせるドーパミンが脳内で分泌され、報酬系と呼ばれる神経系が活性化して脳の働きを高めます。美味しいものを食べる、恋心を持つ、新しいことにチャレンジする、達成感を味わう、映画や読書などで感動する、旅をしてリフレッシュするなど積極的な生活で脳を活性化させましょう。ただし、お菓子や甘い物はほどほどに。
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④有酸素運動を行う
ウオーキングやジョギング、サイクリング、水泳、球技などの有酸素運動は脳に送られる酸素量を増やし、脳の働きをよくします。ゆっくり散歩するよりジョギングするほうが脳にはよい刺激になります。
また、何も考えないで走るより、例えば2桁の足し算をしながら走るなど、同時に頭を使うほうが前頭前野の働きをよくします。
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⑤ストレスをためず、十分な睡眠をとり、規則正しい生活をする
ストレスが長期間続くと副腎皮質ホルモンのコルチゾールが過剰に分泌されるようになります。すると神経細胞の樹状突起やシナプスを消滅させたり神経細胞を減少させたりして、海馬を萎縮させるので、ストレスをためないようにしましょう。また、毎日規則正しく起きて朝日を浴び、1日を始めると、体内時計が整い、脳の働きもよくなります。睡眠をしっかりとることも脳にとって大切です。
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現職:京都大学メディカルイノベーションセンター特任教授、認定NPO 法人日本ホルモンステーション理事長、京都大学名誉教授。京都大学医学研究科EBM研究センター長、同副研究科長、同教育研究評議会評議員、同探索医療センター長等を歴任。日本内分泌学会元理事長、日本肥満学会前理事長。紫綬褒章受章、武田医学賞、日本医師会医学賞ほか受賞。
Well TOKK vol.4 2017年1月10日発行時の情報です。