wellness講座「インフルエンザを正しく予防」

新型コロナウイルス感染症が世界的に流行していますが、冬になると流行するインフルエンザも国内の例年の感染者数は推定約1000万人で、2018年の死亡者数は3000人以上ですから、軽く考えることはできません。自分がかからないために、また人にうつさないためにもしっかり予防し、治療しましょう。

インフルエンザはどんな病気?

インフルエンザは、インフルエンザウイルスが体内に入って喉(のど)や気管支、肺などで増えるために、高熱や頭痛、筋肉痛などの症状が出る感染症です。
インフルエンザウイルスの感染経路には飛沫感染と接触感染の2つがあります(図1)。主な感染経路は飛沫感染です。咳やくしゃみで生じる小さな水滴(飛沫)に混じったウイルスが口や鼻から気道に侵入します。一方、接触感染はウイルスが手に付着しただけでは感染しませんが、その手で口や鼻、目などの粘膜に触れると感染してしまいます。ですから、その前に手洗いやアルコール消毒をすることが大切なのです。

風邪とインフルエンザとの違い

風邪(感冒)も大半は様々なウイルスに感染することが原因です。主に口や鼻から侵入したウイルスが鼻や喉などの上気道に炎症をもたらしますが、多くの場合、症状は比較的軽く、全身症状はあまり見られません。進行も比較的ゆっくりしています。感染の経路はインフルエンザと同じです。
一方、インフルエンザウイルスは感染力が非常に強く、風邪に見られる症状に加えて、突然38°C以上の高熱を発し、倦怠感、筋肉痛、頭痛など様々な全身症状が現れます(表1)。ウイルスに感染しても、多くの人はやがて体内に抗体ができて1~2週間で軽快しますが、高齢者や小児では、時に肺炎や脳症といった合併症を引き起こすことがあるので注意が必要です。

季節性インフルエンザと新型インフルエンザ

ヒトに感染するインフルエンザにはA型・B型・C型の3種類のウイルスがあります。A型はヒトや鳥、ブタなどの動物が感染し、B型とC型はヒトだけが感染するといわれています。主にヒトに流行を起こすのは、A型とB型のウイルスです。
一般的に免疫ができると同じインフルエンザには感染しませんが、抗原性の変化が小さいため、毎年、冬の寒い時期になると流行します。これが季節性インフルエンザです。
一方、鳥と鳥など動物の間で感染していたA型インフルエンザウイルスの遺伝子が大きく変異してヒトにも感染するようになると、誰も免疫を持たないため、世界的な大流行(パンデミック)を引き起こすことがあります。これを新型インフルエンザといいます。1918年に全世界で大流行したスペインインフルエンザがこれにあたります。死亡者数は全世界で数千万人といわれ、日本でも約38万人が亡くなったと推定されています。その後もアジアインフルエンザ(1957年)、香港インフルエンザ(1968年)が流行し、最近では2009年に新型インフルエンザが登場しています。しかし、これらも多くの人が免疫を獲得するにつれ収束していき、季節性インフルエンザとして扱われるようになります。

インフルエンザの予防

インフルエンザにかからないために、また人にうつさないために、日常生活では次のようなことに気をつけ、ワクチンの予防接種を受けましょう。

ワクチンの予防接種

インフルエンザワクチンの予防接種は、ある程度インフルエンザの発症を予防することがわかっています。特に65歳以上の高齢者の重症化を防ぐ上で一定の効果があるとされています。日本ではウイルスの感染性をなくした不活化ワクチンが使われていますので、接種しても発症する心配はありません。ただし接種してから効果が表れるまで2~3週間が必要で、効果が持続する期間は5カ月ほどです。特に高齢者、小児、心臓病、腎臓病、呼吸器疾患などの持病がある人は、かかりつけ医と相談してできるだけ流行前にワクチンの予防接種を受けましよう。

インフルエンザの治療

インフルエンザの症状が出たら、早めに医療機関を受診して治療を受け、自宅で安静にして過ごすのが原則です。スポーツ飲料や経口保水液など水分をしっかり補給しましょう。また、感染を拡大させないために、発症してから5日間、症状がなくなってから2日間は自宅から出ないようにしましょう。

抗インフルエンザ薬

インフルエンザの症状を改善するには、抗インフルエンザ薬の服用が有効です。これは体内にいるインフルエンザウイルスに直接作用するわけではありませんが、その増殖を防ぐ効果があります。抗インフルエンザ薬は発症後48時間以内に服用し始めると、服用していない場合に比べて発熱期間が1~2日短縮され、ウイルスの排泄量も減少し、症状が徐々に改善していきますが、発症して数日経ってから飲んでも効果はないとされます。薬を服用して熱が下がっても、体内にはまだウイルスがいるので、すぐに薬の服用をやめないようにしましょう。

対症療法

インフルエンザの対症療法として解熱薬や二次性感染症に対して抗菌薬が使われることがあります。ただ小児の解熱薬はアセトアミノフェンに限定され、アスピリンを含む非ステロイド性抗炎症薬はインフルエンザ脳症の併発を引き起こす可能性があるため、原則として使いません。

重症化するリスクの高い人

65歳以上の高齢者、心臓や呼吸器などの慢性疾患、糖尿病、腎機能障害、免疫不全のある人などは免疫力が低下しているため、インフルエンザウイルスに感染すると二次性の肺炎や気管支炎を引き起こして重症化するリスクが高いとされます。また、乳幼児などはまれに高熱による急性脳症になることがあります。日ごろから積極的に予防対策を行うことが大切です。

新型コロナウイルス感染症

ヒトに感染するコロナウイルスは4種類あり、一般の風邪の原因の10〜15%を占めることが知られています。また動物に感染するコロナウイルスも存在し、コウモリのコロナウイルスが動物を介してヒトに感染し、ヒトからヒトへ感染して重症肺炎を引き起こす2種類の新型コロナウイルスが見つかりました。2002年の重症急性呼吸器症候群(SARS)と2012年の中東呼吸器症候群(MERS)です。さらに2019年12月に中国武漢で発生した原因不明の肺炎は、SARSやMERSと同じβコロナウイルスに属する新型コロナウイルスが原因であることが明らかになりました。新型コロナウイルス感染症(COVID-19)は一気に全世界に広がり、WHOは2020年3月、パンデミックを宣言しました。日常生活での新型コロナウイルス感染症の予防法は基本的にインフルエンザ予防と同じです。これから冬に向かってインフルエンザと新型コロナウイルス感染症が同時に流行することも心配されていますので、しっかり予防しましょう。

監修:平田結喜緒ひらたゆきお先生

(公財)兵庫県予防医学協会理事・健康ライフプラザ健診センター長。前先端医療センター病院長。東京医科歯科大学名誉教授。専門分野は内分泌代謝学、高血圧、分子血管生物学。日本内分泌学会評議員・理事、日本心血管内分泌代謝学会評議員・理事、日本心脈管作動物質学会評議員・理事、日本糖尿病学会評議員、日本高血圧学会評議員などを歴任。

Well TOKK vol.19 2020年10月2日発行時の情報です。