wellness講座「肩・首のこりをスッキリ解消」

多くの日本人が肩こりの症状を訴えています。国民生活基礎調査(令和元年)によると、女性では様々な症状の中でも肩こりを自覚している人が一番多く、男性の約2倍です。パソコンを使うデスクワークが当たり前になり、スマートフォン(スマホ)の普及率が飛躍的に高まったことで、肩こりに加え首こりを自覚する人も増えています。

肩こりはなぜ起こる?

ヒトは二足歩行をするようになり、首や腰に負担がかかりやすくなっています。ヒトの頭は成人で約5kgの重量があります。さらに約8kgある両腕は、肩回りの筋肉にぶら下がっています。そのため頭や腕を支えている僧帽筋そうぼうきん肩甲挙筋けんこうきょきん棘上筋きょくじょうきん菱形筋りょうけいきんなどの筋肉は常に緊張しているのです(図1)。 それに加えて、パソコンを何時間も見続ける、1日中車を運転する、不自然な姿勢でスマホを長く見るなどで、負担が増しています。筋肉は緊張が続くと、疲れで乳酸などの疲労物質がたまり、硬くなります。すると、筋肉の中の血管を圧迫して血液循環が悪くなったり、末梢神経を刺激して、こりや痛みが起こったりするようになります(図2)。

若い人に増えている首こり

若い人に首こりを感じる人が増えています。スマホを使う時、多くの人は頭を少し前に傾けていますが、この姿勢は図3のように首に対する負荷が何倍も増加します。そのため、本来首のところでゆるく湾曲している首の骨(頸椎けいつい)が、湾曲しないで真っすぐになるのでストレートネック(俗にスマホ首)と呼ばれ、首の筋肉への負担がさらに大きくなります。
  ストレートネックになっているかどうかは図4のようにしてチェックすることができます。壁を背にして立ち、後頭部、肩甲骨、お尻、かかとが自然に壁に付くなら大丈夫ですが、後頭部が離れてしまう人は要注意です。

こんな病気も肩こりの原因に

肩こりの多くは主に筋肉の疲労から来ています。しかし、中には頸椎疾患、肩関節疾患、高血圧、狭心症、心筋梗塞、自律神経失調、精神的なストレスなどが原因になっていることもありますので、頑固な肩こりが続くようなら、医師に相談してください。 そのほか、視力に合わない眼鏡をかけている、歯のかみ合わせが悪い、寒い場所や冷房が強過ぎる部屋にずっといるなど、直接肩こりとは関係がなさそうなことが原因になっていることもあるので、注意しましょう。

肩こり・首こりの予防法

肩こり・首こりは次のような点を意識して予防しましょう。  
    1. 同じ姿勢を長時間続けず、30分に1回は肩の上げ下げ、背伸び、首の運動などの軽い体操やストレッチをしましょう(図5)。
 
    1. パソコンを使った長時間のデスクワークの際、ゆがんだ姿勢にならないようにイスや机の位置・高さを調整しましょう。また、肘掛けや机に腕を載せると首や肩甲部の筋肉にかかる荷重を軽減できます。
 
    1. 適度な運動を心掛けて血流を改善し筋力を強化しましょう。
 
    1. 寒いところに長くいると筋肉を緊張させて血行を悪くするので温度に気をつけましょう。
 
  1. ショルダーバッグは同じ側ばかりに掛けないで、時々反対側にかけ替えるようにしましょう。

スマホを使う時の良い姿勢

スマホは画面や文字が小さいため、顔を近づけたり、背中を丸めて前傾姿勢になったりしがちです。しかも、ゲームやSNSに夢中になると時間を忘れて続けてしまい、眼精疲労も重なって、重い肩こりや首こりになりやすいです。スマホを使う時はなるべく背筋と首を真っすぐにして、スマホを目の高さに持ってきましょう。また、片手で操作する時は脇の下に反対の手を挟むようにすると楽です(図6)。

肩こり・首こりの対処法

肩こり・首こりの改善には、次のようなことを心掛けると良いでしょう。
マッサージ
15分以内の短く快適な強さでのマッサージ(さする、軽く押す、む)は、軽いこりをほぐす効果があります。しかし、あまり強く揉んだり長時間行ったりすると、筋膜や筋繊維が損傷し炎症を起こして、いわゆる「揉み返し」の状態になるので注意が必要です。
運動
ウオーキングやストレッチなどの軽い運動は、こりの予防法でもあり、改善法でもあります。
温める
肩や首に蒸しタオルを当てたり、38〜40℃のぬるま湯にゆったりと肩までつかると血行が良くなり、緊張もほぐれます。
食事
肩こりの解消にはビタミン(B1、B6、B12、E)、不飽和脂肪酸(DHA、EPA)、ミネラル(カリウム、カルシウム、マグネシウム)などが含まれている食品をバランスよく取るようにしましょう。 頑固なこりが続く場合、整形外科医に相談すると良いでしょう。治療としては運動療法、温熱療法、薬物療法(シップ薬、筋緊張緩和薬、消炎鎮痛薬、局所注射)などがあります。

四十肩(五十肩)

中年以降、突然痛みで腕を持ち上げたり動かしたりすることができなくなって、服を着替えるにも不自由になることがあります。これは肩関節周囲炎、俗に四十肩(五十肩)と呼ばれる症状です。肩こりと混同されがちですが、肩関節周囲炎は老化により肩関節周囲の組織に炎症が起こることが主な原因と考えられています。 自然に治ることもありますが、放置すると日常生活ができなくなり、癒着して動かなくなることもありますので、早めに整形外科医を受診する必要があります。
監修:平田結喜緒ひらたゆきお先生
(公財)兵庫県予防医学協会副会長・健康ライフプラザ健診センター長。前先端医療センター病院長。東京医科歯科大学名誉教授。専門分野は内分泌代謝学、高血圧、分子血管生物学。日本内分泌学会評議員・理事、日本心血管内分泌代謝学会評議員・理事、日本心脈管作動物質学会評議員・理事、日本糖尿病学会評議員、日本高血圧学会評議員などを歴任。

Well TOKK vol.24 2022年1月11日発行時の情報です。