wellness講座「便秘解消は日常生活から」

「便秘でお腹が張って仕事に集中できない」といった悩みを抱えている女性は少なくありません。便秘は、大便に含まれる水分が不足して便が硬くなったり、便が通る腸管が狭くなるために、便を十分かつ快適に排出できない状態です。市販の便秘薬に頼る前に、日常生活の中でできる便秘解消法をやってみましょう。

大便のできる仕組みと便秘

大便はどんなふうにできるのでしょうか。口から入った食物は、胃で撹拌(かくはん)されて小腸に入ります。小腸に入った食物はぜん動運動で移動している間にアミノ酸、ブドウ糖、脂肪酸などに分解されて吸収されます。栄養素の約90%が小腸で吸収されたあと、食物の残りカスは大腸(結腸)に入り、上行結腸→横行結腸→下行結腸へと移動している間に水分が吸収されて固形の便になります。その後、S状結腸にたまり、直腸を経て肛門から排泄されます(図1)。
固形になった便の約80%は水分です。残りの20%には、「食物の残りカス」「腸の粘膜上皮がはがれたもの」「腸内細菌」が3分の1ずつ含まれています。通常、食物は口から入って24〜48時間で便となって排泄されます。大腸ではゆっくり水分が吸収されますが、吸収が不十分だったり、腸管の運動が過敏だったりすると、下痢をしたり、ゆるい便になります。一方、腸管の運動が停滞したり、排便する働きが低下すると硬い便になり、便秘につながります。

便秘は女性に多いが高齢の男性も

多くの人は1日に1〜2回排便がありますが、健康な便が気持ちよく出る場合は、2〜3日に1回でも便秘ではありません。逆に、毎日排便があっても、いつも便を出し切っていない感じがあったり排便しづらい時は便秘と言えます。
若い女性は男性より便秘が多く、これには女性ホルモンが関係していると言われていますが、過度なダイエットが影響している場合もあります。しかし男女とも60歳を過ぎると食事量・水分量の減少や運動不足が原因で便秘の人が増え、80歳以上になると10%もの人が便秘を自覚すると言われています。
便秘が続くと、お腹が張る、頭が重い、肩が凝るなどの不調や、肌荒れ、吹き出物の原因になります。また、便秘には大腸がんや炎症性腸疾患などが潜んでいる場合もあるので、あなどることはできません。

慢性便秘症の分類と原因

国際的な便秘の分類法を踏まえた、日本初の便秘のガイドライン『慢性便秘症診療ガイドライン2017』が刊行されました(表1)。慢性便秘の原因は大腸に異常がある器質性のものと、それが見当たらない機能性のものがあります。機能性の便秘には排便回数の減少を特徴とする大腸通過遅延型や大腸通過正常型、便が出づらい機能性便排出障害や硬便があります。診察や検査を受け、原因に応じた治療をすることが必要です。

日常生活の中で便秘を解消しよう

便秘を解消するためには、食事や日常生活を見直す必要があります。まず、きちんと1日3回の食事を取りましょう。特に朝食は腸のぜん動運動を促し、便意をもよおさせるので、朝食抜きはやめましょう。朝冷たい水を1杯飲むことも腸のぜん動運動を促進します。食事では食物繊維や発酵食品をしっかり取ることが大切です。食事の時よく嚙んで食べると食べ物が細かく砕かれ、唾液が出やすくなり、消化活動が高まるため、便秘の解消にもつながります。水分は1日に1.5リットル以上取りましょう。また、ウォーキングなど適度な運動をするように心掛けましょう。

食物繊維と発酵食品

よい腸内環境をつくろう

腸内には細菌が約1000種類、約100兆個生息していて、腸内フローラとも言われます。腸内細菌は善玉菌、悪玉菌、その中間の日和見菌の3種類があります。乳酸菌やビフィズス菌などの善玉菌は約20%、大腸菌やブドウ球菌などの腸内環境を悪化させる悪玉菌は約10%いて、残りが日和見菌です。善玉菌の割合を増やし、悪玉菌の割合を減らすことで腸内環境が整い、便秘の解消につながります。腸内の善玉菌を増やすために、食物繊維、オリゴ糖、発酵食品を多く含む食品を摂取しましょう(表2)。
成人の1日当たりの食物繊維の目標摂取量は男性20g以上、女性18g以上で、男女とも4g程度不足しています。例えば納豆やブロッコリー、カボチャ、ヒジキなどは、1食分の小鉢に食物繊維が2~3g含まれているので、2品増やすとよいでしょう。

さらに知っておきたいこと

大便の状態を確認しよう

便秘解消のためには毎日の便をチェックすることも大切です。便の状態を知るために、便の形状や色、大きさを元にして7つのタイプに分類したブリストルスケールという世界共通の尺度がよく使われます(表3)。このスケールの4が理想的な便です。

排便はロダンの“考える人”のポーズで

排便しやすい姿勢をご存じですか?
図2のように、体と太ももとの間が35度ぐらいになるように前かがみになると、直腸と肛門がまっすぐになって便を出しやすくなります。足下に台を置くといいでしょう。心をリラックスさせ、背筋を伸ばし、腹筋に力を入れていきみます。

便秘薬と危険な便秘

市販の便秘薬を習慣的に飲んでいると排便能力が弱くなるので、医師に相談して適切な便秘薬を処方してもらいましょう。また、急な便秘、便秘と下痢の繰り返し、血便、便が急に細くなる、残便感が続く、体重の減少を伴う便秘、腹痛や吐き気・発熱を伴う便秘などの場合は、がん等の器質性の原因が疑われますので、消化器専門の医師の診察を受けましょう。

監修:平田結喜緒ひらたゆきお先生

(公財)兵庫県予防医学協会理事・健康ライフプラザ健診センター長。前先端医療センター病院長。東京医科歯科大学名誉教授。専門分野は内分泌代謝学、高血圧、分子血管生物学。日本内分泌学会評議員・理事、日本心血管内分泌代謝学会評議員・理事、日本心脈管作動物質学会評議員・理事、日本糖尿病学会評議員、日本高血圧学会評議員などを歴任。

Well TOKK vol.17 2020年4月2日発行時の情報です。