現代版 温泉と健康~心とからだの湯けむり活用~①

日本人は、薬や医術もまったくない時代から長い間、温泉を利用した「湯治」という文化を育んできました。現代のような高度な医療技術が発達した時代では、温泉で病気を治すというよりも心身の癒しやストレス状態からの解放、積極的な健康づくりなどといった生活習慣病の予防・保養に温泉が活用されるようになっています。

大分県の長湯温泉に「ラムネ温泉館」という日帰り温泉があります。この温泉の入り口に「体を洗わず、心を洗う」と書かれた紙が壁に貼られています。今回の「現代版 温泉と健康」では、温泉に浸かるという直接作用だけでなく、温泉地に留まりその土地の気候や歴史や文化に触れる転地効果などの間接作用も含めた総合的な温泉の活用をまとめました。

※掲載の各温泉地の営業状況等につきましては、各観光協会HP等でご確認ください。

Profile
杉岡 俊長Toshinaga Sugioka

・健康マスター関西会 会長  ・健康マスター普及認定講師
・温泉ソムリエマスター    ・温泉観光実践士

健康マスター関西会では、健康リテラシーの向上を目指し「お風呂と健康」の話や栄養・食事などの日常生活の健康に関する学習から、大学の先生方による専門的な教育講演まで幅広く健康について学ぶ場を提供しています。是非一度ホームページをご覧下さい。

杉岡 俊長
Toshinaga Sugioka

・健康マスター関西会 会長
・健康マスター普及認定講師
・温泉ソムリエマスター
・温泉観光実践士

健康マスター関西会では、健康リテラシーの向上を目指し「お風呂と健康」の話や栄養・食事などの日常生活の健康に関する学習から、大学の先生方による専門的な教育講演まで幅広く健康について学ぶ場を提供しています。是非一度ホームページをご覧下さい。

第1回 日本人が愛した温泉

温泉好きの日本人

日本人の温泉好きは誰も疑う人はいないでしょう。仕事で海外に長期赴任した人の約70%の人が、日本に帰ったらまずゆっくり温泉に入りたいというデータもあるようです。私たちは緊張から解き放されると、無性に温泉が恋しくなるというDNAがあるのではないかと思うくらいです。

日本旅行協会の調査によると「行ってみたい旅行のタイプは?」という質問に対し、温泉旅行がトップになっています。温泉旅行とは、旅行の目的を温泉入浴においているのに対し、観光目的の旅行の宿泊とは区別をしています。

出典:


URL:

「日本を元気に、旅で笑顔に。数字が語る旅行業 2016(28ページ)」
発行:一般社団法人日本旅行業協会(JATA)広報室
2016年6月20日発行
http://www.jata-net.or.jp

日本に温泉はいくつある?

環境省自然環境局が2018年3月末現在で発表した資料に基づく最新データを基に、日本温泉総合研究所がまとめた資料によると下の表の通りです。温泉地とは、温泉と宿泊施設が一体となっているところで一軒宿でも一つ、有馬温泉のようにたくさんの宿泊施設があっても一つと数えます。
源泉数が世界第2位となる中国の約3,000本と比較してもその数は突出しています。

参考:

株式会社日本温泉総合研究所(2022年1月閲覧)

戦後の温泉利用の変遷

戦時中の温泉は傷痍軍人の療養のために陸軍と海軍の管轄下にありました。戦後の高度経済成長期は、企業などの団体・宴会・接待旅行が主流でしたが、その後、新幹線などの交通手段の発達と旅行情報誌の創刊などにより女性グループや家族旅行へとトレンドが変わりました。現在は温泉に求めるニーズの多様化に伴い、健康や介護への利用も急速に広がりつつあります。

部屋付き風呂、家族風呂ブームとは

近年の温泉トレンドの一つに部屋付き温泉風呂や貸切家族風呂のブームがあります。新たに温泉水を分割する大掛かりな工事を伴いますが、多様なニーズから多くの旅館が取り入れています。中でも、介護を必要とする家族を温泉に連れて行ってあげたいという人にとっては、安心して付き添いながらゆっくりと温泉に入れてあげることが可能となりました。

部屋付き風呂の風景

「日本三古湯」と「日本三名湯」って、どこの温泉?

「日本三古湯」とは「日本書紀」に出てくる3つの温泉です。また、日本三名湯とは、室町時代の詩僧・万里集九の詩文集「梅花無尽蔵」や、江戸時代の儒学者林羅山の詩文集に記載されていることに由来する3つの温泉です。

【日本三古湯】

道後温泉(愛媛県)

白浜温泉(和歌山県)

有馬温泉(兵庫県)

【日本三名湯】

有馬温泉(兵庫県)

草津温泉(群馬県)

下呂温泉(岐阜県)

「日本三大美人の湯」って、どこの温泉?

「日本三大美人の湯」は、龍神温泉(和歌山県)、湯の川温泉(島根県)、川中温泉(群馬県)の3湯です。こちらは大正10年頃に当時の鉄道省が発行した「温泉案内」に掲載されたことが始まりと言われています。また「日本三大美肌の湯」は嬉野温泉(佐賀県)、斐乃上温泉(島根県)、喜連川温泉(栃木県)です。この3つの温泉地は肌に対する効能が良い温泉として、公益財団法人中央温泉研究所と温泉評論家の藤田聡氏によって選ばれました。

【日本三大美人の湯】龍神温泉(和歌山県)

【日本三大美肌の湯】嬉野温泉(佐賀県)

四大美肌泉質とは

肌に良いと言われる「四大美肌泉質」は下の図の通りです。(弱)アルカリ性単純温泉に浸かると肌がヌルヌルしますが、この現象は湯がヌルヌルしているのではなく、弱酸性の皮脂とアルカリ性の湯が反応した一種の石鹸効果の現れです。アルカリ温泉は角質を乳化させて剥がれやすくし、くすみを改善しツルツル肌にしてくれます。しかし入浴後の乾燥肌に注意が必要で、保湿剤を塗るなどのケアもお忘れなく。

皮膚は紫外線や乾燥、細菌など外部ストレッサーだけでなく、「皮膚は心の鏡」と言われるようにストレスやイライラ、不眠など内部ストレッサーにも影響されます。温泉に浸かり、ストレスなど内部ストレッサーから解放されることも美肌のためには大切なことですよ。

日本人の温泉好きは昔から現代に至るまで変わりませんが、その要因は単に源泉が多いとか、お風呂好きの国民性であるというだけではありません。時代の移り変わりや社会環境の変化に求められる温泉への期待やニーズに、永く応えて来た温泉地の努力があったことも欠かせないと思います。

それでは、そもそも温泉とはどういうものかということについて、次の回で詳しくお話します。

※写真、図表の流用先を記載していないものは、フリー画像、あるいは独自に作成したものです。

現代版 温泉と健康 
~心とからだの湯けむり活用~