現代版 温泉と健康~心とからだの湯けむり活用~➁

日本人は、薬や医術もまったくない時代から長い間、温泉を利用した「湯治」という文化を育んできました。現代のような高度な医療技術が発達した時代では、温泉で病気を治すというよりも心身の癒しやストレス状態からの解放、積極的な健康づくりなどといった生活習慣病の予防・保養に温泉が活用されるようになっています。

大分県の長湯温泉に「ラムネ温泉館」という日帰り温泉があります。この温泉の入り口に「体を洗わず、心を洗う」と書かれた紙が壁に貼られています。今回の「現代版 温泉と健康」では、温泉に浸かるという直接作用だけでなく、温泉地に留まりその土地の気候や歴史や文化に触れる転地効果などの間接作用も含めた総合的な温泉の活用をまとめました。

Profile
杉岡 俊長Toshinaga Sugioka

・健康マスター関西会 会長  ・健康マスター普及認定講師
・温泉ソムリエマスター    ・温泉観光実践士

健康マスター関西会では、健康リテラシーの向上を目指し「お風呂と健康」の話や栄養・食事などの日常生活の健康に関する学習から、大学の先生方による専門的な教育講演まで幅広く健康について学ぶ場を提供しています。是非一度ホームページをご覧下さい。

杉岡 俊長
Toshinaga Sugioka

・健康マスター関西会 会長
・健康マスター普及認定講師
・温泉ソムリエマスター
・温泉観光実践士

健康マスター関西会では、健康リテラシーの向上を目指し「お風呂と健康」の話や栄養・食事などの日常生活の健康に関する学習から、大学の先生方による専門的な教育講演まで幅広く健康について学ぶ場を提供しています。是非一度ホームページをご覧下さい。

第2回 温泉を楽しむための基礎知識

                        

前回は、昔から現代に至るまで日本人が如何に温泉と関わって来たかについてお届けしました。この第2回では、温泉の定義や温泉選びに役立つ療養泉の基本的な知識についてお届けします。説明の中には元素やイオンなど化学の難しい話にも触れますが、温泉を知る上で欠かせない要素なので是非読んで下さい。

温泉ができる3要素と湧出口

温泉は地球の奥深くでどのようにしてできるのでしょうか?温泉ができるためには水・熱・成分の3つの要素が必要です。これを温泉の3要素と言っています。水は地下水や太古の海水が地下に閉じ込められた化石海水などです。熱は火山性温泉のマグマや非火山性温泉の地殻変動のエネルギーによる熱があります。お湯に溶け込んだ成分は、岩石などの地中の成分や海水などの成分となります。それと地表に出てくるための湧出口が必要です。湧出形態は自然湧出、掘削自噴、動力揚湯がありますが、湧出形態は温泉の定義には関係しません。

有馬温泉金泉の源泉の一つ「御所泉源」(2022年1月撮影)

温泉法で定められた温泉とは・・・

地下から湧いてくる液体がすべて温泉なら、井戸水も石油も温泉の一種でしょうか?
実は、温泉となるためには「温泉法」という法律で決められた条件を満たさなければ温泉とはなりません。温泉法に決められた条件を要約すると以下の3点ですが、このうちのどれか一つでも当てはまると温泉となります。

療養泉とは・・・

温泉のうち、特に体に良い溶存物質が一定量に達していれば「療養泉」となります。「鉱泉分析法指針」(平成26年改訂)では、療養泉の定義を以下のように決められました。温泉法は法律ですが、鉱泉分析法指針は法律ではありません。

引用:

鉱泉分析法指針(平成26年改訂)https://www.env.go.jp/council/
12nature/y123-14/mat04.pdf

温泉の分類について

温泉分析書の泉質名の後に温泉の分類を示す「高張性・中性・低温泉」などの表示が書かれています。温泉の分類を提示する目的は、私たちのからだにとって影響を及ぼす浸透圧・液性(pH)・源泉温度を入浴する人に理解してもらうためです。この3つの基準は以下の通りです。

【浸透圧による分類】

低張性 = 8g/kg未満で、からだの細胞液より薄いもの
等張性 = 8g/kg以上10g/kg未満で、からだの細胞液に近い濃さのもの
高張性 = 10g/kg以上で、からだの細胞液より濃いもの

【液性による分類】

アルカリ性=㏗8.5以上
弱酸性=㏗3.0~6.0未満

弱アルカリ性=㏗7.5~8.5未満
酸性=㏗3.0未満

中性=㏗6.0~7.5未満

【源泉温度による分類】

高温泉=42℃以上
冷鉱泉=25℃未満

温泉=34℃以上42℃未満

低温泉=25℃以上34℃未満

参考:

温泉ソムリエテキスト(発行日平成29年8月)より

泉質名の付け方で解る「湯の個性」

療養泉のうち、源泉温度が25℃以上で、他の泉質名がつく条件に該当しない場合は単純温泉となります。単純温泉以外の療養泉には、溶存物質により泉質名が付いています。泉質名はそのお湯がどのようなお湯かという個性を表しています。泉質名の付け方のルールは以下の通りです。

【泉質名の付け方のルール】

まず先頭に溶存物質のうちの特殊な成分を表示し、次に20mval%以上の陽イオン、陰イオンの順で表示します。20mval%の陽イオンが複数ある場合は、多い順に表示し「・」で区切ります。最後に陰イオンを漢字で表示します。そして3つの項目を「ー」でつなぎます。ミリバルという単位は温泉だけに使用されている単位で、どれだけ化学変化を起こす力を持っているかを表します。計算には原子量と原子価を使用します。

温泉分析書を見てみましょう

温泉宿の脱衣場の周辺に、入浴する人に見えるように温泉分析書と温泉分析書別表そのものが掲示されているか、あるいはその内容を解りやすく説明したものが掲示されています。この温泉分析書は、この温泉のお湯はこのような性質の湯であるということを証明したものとなります。では、神戸みなと温泉 蓮様から実物をお借りしましたので、私なりに温泉分析書のどこを見ているかポイントをお伝えします。


資料提供:神戸みなと温泉 蓮
(「温泉宿・ホテル総選挙2021」健康増進部門全国第2位)

難しい用語や化学の話で解りにくかったかと思いますが如何でしたか?私たちのからだの体液も海水も温泉の湯も地球上にある自然の液体ですから、ナトリウムやマグネシウムなどが含まれているよく似た液体です。温泉の湯が私たちの体液と似かよった性質だからこそ、温泉は私たちに様々な影響を与えてくれます。

温泉がある程度解ったところで、次回は実際の温泉地の選び方や食事や入浴のマナーなどをご紹介します。これを知っていれば温泉旅行が更に楽しくなると思いますよ。

※写真、図表の流用先を記載していないものは、フリー画像、あるいは独自に作成したものです。

現代版 温泉と健康 
~心とからだの湯けむり活用~