【健康・未病と毛細血管】第1回「疲れと未病~① 健康状態のめやす?!~」


筆者:渡辺 恭良 氏
京都大学医学部卒、京都大学大学院医学系研究科修了(医学博士)、大阪バイオサイエンス研究所・研究部長、大阪市立大学大学院医学研究科・教授、同健康科学イノベーションセンター・所長、理化学研究所分子イメージング科学研究センター・同ライフサイエンス技術基盤センター・双方のセンター長、理化学研究所健康生き活き羅針盤リサーチコンプレックスプログラム・プログラムディレクターを経て、現職(理化学研究所生命機能科学研究センター・チームリーダー、大阪公立大学健康科学イノベーションセンター・顧問、大阪公立大学名誉教授など) ベルツ賞、文部科学大臣表彰科学技術賞など受賞。原著英語論文512報、特許出願94件など。


健康は動的なもの、未病という考え方

私は、人の病気の原因やその治療について、医師としてまた医学研究者として、長い間研究を行ってきました。人にとっては、当たり前のことですが「病気にならないこと」が重要で、できる限り健康状態を維持し、病気を予防する取り組みが必要と考えてきました。まだ病気という診断はついていないが健康とも言えない状態、『未病』という言葉があります。古くは中医学や漢方の考え方ですが、現代人が抱える健康課題を解決し予防医療を実現する上で、その意味が重要になってきました。

「健康〜未病〜病気」の間には、くっきりとした区分線はなく、切れ目なくつながっています。健康状態は、数ヶ月前…1週間前…昨日、今日、明日…1週間後…数ヶ月後と、それぞれ少しずつ変化する”動的“なもので、良くなっているのか、それとも悪くなっているのか、わかりにくいものです。

図:未病とは?

未病の域に入ってくると、「痛み、疲労、倦怠感、不安感」などの症状が現れます。医院・クリニック・病院にかかる際に訴える症状で最も多いのが”痛み”ですが、皆さんどこかに持っていて気づきやすい。しかし、次によく訴えられる “疲労、倦怠感”は、ひどい状態になってようやく来院される方が、以前は多くいらっしゃいました。当時は社会的にも、「疲労は当たり前」、「疲労しないのは頑張っていない証拠」などと考えられていました。疲労は、漠然としていてあまり医療のメスが入っていませんでした。

“疲れ”は健康のアラーム

私が長年研究してきたテーマは、この疲れ(疲労・倦怠感)です。30年前までは、他の症状に比べてきちんとした研究がありませんでした。人は毎日体の中で起こった問題を修復しています。疲れの修復では休息や睡眠が重要ですね。

図:疲れの睡眠による回復

疲労は休息の必要性を伝え、過剰活動による疲弊を防御するための重要なアラームです。しかし、急な出張が入ったり残業があったり、生活の負荷はその時々で変動しますし、十分な睡眠が取れない時もあります。こうして、疲労が溜まりやすくなる。状況に応じた計画的な休息や睡眠、修復を促す食事や軽度な運動など、自分でスケジュールを組み立てて行動する工夫、セルフケアが必要となります。

健康のめやすとは?!

健康(未病)状態が良くなったり悪くなったりする様子は、個々人によって違います。自分に合った健康維持や予防対策には、自分の健康がどの位置にあるのか、それを示す科学的な健康度=“健康のめやす “が有用です。私は、長年研究してきた疲労・ストレスの理解をベースに、「未病状態では疲労がたまり、それにより体の調子が悪いことを知る」、というメカニズムを健康度のバロメーターにしようと考えました。これは、私が作った考え方で「健康関数」といい、曖昧だった健康度を連続して表すことを目指しています。

その研究開発のため、神戸の理化学研究所を中心とした国(科学技術振興機構)の大型研究プロジェクト(5年間)にて、健常な生活者の皆さんの協力を得て「総合的健康度ポジショニングマップ(IHDPマップ)」を作りました。マップでは、約25%の方が未病のうち比較的重めの状態にあることがわかりました。やはり、未病は気づきにくいですね。マップを用いてより簡単な健康のめやす、ポジションを知ることができれば、自分の状態の気づきを得ることが容易になります。

IHDPマップの研究開発では企業の最新の技術も活用しています。最近TVでよく紹介されますが、毛細血管の計測技術があっと社から導入されました。この開発では、特に、毛細血管の太さが血中悪玉脂質タンパクの量と関係していることがわかり、脂質異常のリスクを評価できることがわかりました*。

図:毛細血管と健康・未病との関係

毛細血管は重要な器官ですが、最近研究が進み、多くの未病や疾病との関係が研究され、健康未病に関わる多くの情報を与えてくれることがわかってきています。

ウェルネスの実現に向けて…

未病に対しては、多くの場合、適度な運動、毎日の食事の改善、サプリメントの活用など、いわゆるセルフケアの工夫が有効です。例えば、定期的に健康度を測定できれば、取り組んでいるセルフケアの効果が自分にあっているかどうかを確認することができますよね。このように、健康度に関する頼りになる指標があれば、「健康のために何をすべきか?」と考えることが容易になりますし、自分に合った健康改善方法を見つけやすいし、またセルフケアを安心して継続しやすくなります。

それぞれの人たちが、健康・未病のめやす(IHDPマップ上の位置)を上手に活用し、自分にあったセルフケアに取り組み、今日よりも明日さらにもっと向こうの未来で、より良い健康状態を達成する。そして、なりたい自分=本当のウェルネスを実現する…「個別健康の最大化」そうした世界を目指して疲労と健康度の研究を続けています。

図:健康度を活用したウェルネスの実現

*)理化学研究所とあっと株式会社はその技術を特許にしました。

 

この連載では、毛細血管スコープ、計測技術のあっと株式会社のコラムページと連携しています。毛細血管計測や、この記事について詳しい内容があっと社のコラムページで提供されています。

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