現代版 温泉と健康~心とからだの湯けむり活用~④

日本人は、薬や医術もまったくない時代から長い間、温泉を利用した「湯治」という文化を育んできました。現代のような高度な医療技術が発達した時代では、温泉で病気を治すというよりも心身の癒しやストレス状態からの解放、積極的な健康づくりなどといった生活習慣病の予防・保養に温泉が活用されるようになっています。

大分県の長湯温泉に「ラムネ温泉館」という日帰り温泉があります。この温泉の入り口に「体を洗わず、心を洗う」と書かれた紙が壁に貼られています。今回の「現代版 温泉と健康」では、温泉に浸かるという直接作用だけでなく、温泉地に留まりその土地の気候や歴史や文化に触れる転地効果などの間接作用も含めた総合的な温泉の活用をまとめました。

※掲載の各温泉地の営業状況等につきましては、各観光協会HP等でご確認ください。

Profile
杉岡 俊長Toshinaga Sugioka

・健康マスター関西会 会長  ・健康マスター普及認定講師
・温泉ソムリエマスター    ・温泉観光実践士

健康マスター関西会では、健康リテラシーの向上を目指し「お風呂と健康」の話や栄養・食事などの日常生活の健康に関する学習から、大学の先生方による専門的な教育講演まで幅広く健康について学ぶ場を提供しています。是非一度ホームページをご覧下さい。

杉岡 俊長
Toshinaga Sugioka

・健康マスター関西会 会長
・健康マスター普及認定講師
・温泉ソムリエマスター
・温泉観光実践士

健康マスター関西会では、健康リテラシーの向上を目指し「お風呂と健康」の話や栄養・食事などの日常生活の健康に関する学習から、大学の先生方による専門的な教育講演まで幅広く健康について学ぶ場を提供しています。是非一度ホームページをご覧下さい。

第4回 温泉は自然指向型のウェルネス

第3回は「温泉地の選び方」というテーマで、温泉地や温泉宿の選び方についてお届けしました。源泉かけ流しや泉質も大切なポイントですが、温泉地を総合的に判断して頂けたらと思います。今回は最終回として現代の温泉活用についてまとめました。
日本で温泉療法と聞けば、泉質にこだわり慢性病の治療やリハビリテーションなどの医療的温泉療法をイメージされる人が多いかと思います。また、専門家からはこれまであまりにも泉質にこだわり過ぎたという反省の声もあります。しかし、現代の温泉は健康づくりや病気の予防・保養に活用する「温泉ウェルネス」が主な目的になっています。そのため温泉に入浴することばかりでなく、温泉地に行くという転地効果も含めた「総合的生体調整作用」と呼ばれる効果が期待されています。

温泉の三養とプチ湯治

温泉の三養とは、「休養」「保養」「療養」を言います。「休養」とは、一泊二日のタイプで気分転換や社会ストレスからの解放にあります。「保養」は、西欧でよく利用される1週間ほどのタイプで、転地効果による心身機能の回復、身体の静養にあります。「療養」は、昔の湯治にあたります。3~4週間にわたり温泉宿で自炊をしながら医師の指導の下で、慢性疾患などの治療を行うことを目的としています。現代社会では、1週間も長い休みが取れない人のために「プチ湯治」がお勧めです。プチ湯治の利用期間は3泊4日ほどですが、保養と同じ効果が期待できます。

温泉は私たちの健康に役立つの?

温泉に行くと脱衣場などに温泉分析書と温泉分析書別表が提示されています。温泉分析書別表には、その温泉の浴用と飲用の禁忌症と適応症が記載されています。温泉の場合は薬事法の関係で、薬のように「効能」という用語は使用できず適応症と言います。浴用の適応症には、単純温泉など泉質に関係なく共通する一般適応症と、その泉質が何の病気に良いのかという泉質別適応症が記載されています。また、飲用の適応症が書かれていても飲用できるとは限りません。

「温泉法第18条第1項の規定に基づく禁忌症及び入浴又は飲用上の注意の掲示等の基準」及び「鉱泉分析法指針(平成26年改訂)」より転載

現代の温泉療法の考え方は「総合的生体調整作用」

現代の温泉療法は、温泉水による「直接作用」と温泉地に行くことによって得られる「間接作用」から考えられています。直接作用には、温かい浴槽に浸かるという「物理的作用」と湯に溶け込んだ物質による「化学的作用」があります。また、間接作用は普段生活している場所から100km以上離れた温泉地に転地することにより得られます。非日常的な環境で数日間過ごすことによって、心身に変化をもたらし、心のストレスから解放されます。現代の温泉活用の考え方は、このように直接作用と間接作用をまとめた「総合的生体調整作用」にあるとされています。

「健康づくりを楽しむ本」(社団法人民間活力開発機構発行)より作成

湯の温度による入浴法の違い

物理的作用では湯の温度が大きな要素です。日本人の好きな入浴温度は41~42℃と言われています。でも、源泉100%かけ流しのように加温をせずに源泉の温度のままで入浴する温泉もあります。湯の温度の違いによる入浴法の特徴を温泉ソムリエのテキストから抜粋しました。

超⾼温浴

45 〜 48 ℃

⾼温、短時間⼊浴による⾮特異的変調効果を狙った⼊浴法。草津温泉の「時間湯」が有名。

⾼温浴

42 〜 45 ℃

⽇本⼈の好きな温度と⾔われており、体に対して刺激的に働き、⾃律神経のうち交感神経を緊張させる温度。
⼼臓の拍動を増加させ⾎圧を上昇させるが、胃液の分泌は抑制される。

温浴

39 〜 42 ℃

一般的な温度であるが体温より高いので体を温める効果がある。特に39~40℃は副交感神経を刺激するリラックス効果が得られる。41〜42℃は日本人が気持ちよく感じる温度。

微温浴

37 〜 39 ℃

体に対して鎮静的に働き精神・神経系の興奮を抑えることからリラックスする⽬的で⽤いられる。
夏なら38 ℃、冬なら40 ℃がリラックス効果が⾼まる。

不感温浴

34 〜 37 ℃

体温に近く、⼊浴温度に対して熱くも冷たくもない温度を「不感(中⽴)温度帯」という。
脈拍、⾎圧、呼吸にほとんど影響がなく、⼼疾患のある⼈でも⼊浴できる。

冷温浴

25 〜 34 ℃

脈拍数は減少する。⾎圧は⼊浴時に⼀過性の上昇をし、⼊浴中は低下し、浴後また⼀過性の上昇を⽰す。
運動浴(⽔中運動)や遊浴(⽔泳)に利⽤される。

冷⽔浴

25 ℃以下

⾎流は抑制され、⽪膚は保温体制をとる。⾼温浴と併⽤して温冷交互浴を⾏う際にも利⽤される。
⼤分県「寒の地獄温泉」が有名。

参考:

「温泉ソムリエテキスト」(平成29年8月発行)98・99頁

湯の温度と自律神経の関係

温泉でも家庭のお風呂でも、入浴する湯の温度によって私たちの心身が影響を受けることは皆さんもご存知と思います。その中でも特に交感神経と副交感神経からなる自律神経の影響は大切なポイントです。一般的に42℃以上の高温浴や20℃以下の冷水浴は交感神経が優位となり、37℃~40℃のお湯なら副交感神経が優位になります。温泉に浸かる場合は湯の温度と自律神経の関係を理解した上で、目的に応じた入浴法を選びましょう。
また、温泉の入浴法の一つに温冷交互浴があります。温冷交互浴と言えばサウナの後の水風呂に浸かるようなイメージをされる方もいるかと思いますが、そうではなく、42℃位の高温の浴槽と34℃~39℃の不感温浴から微温浴の浴槽を短時間に2~3回交互に入浴する方法がお勧めです。温冷交互浴は健康的に問題がない方にとっては自律神経を整える効果があるとされていますが、からだへの負担が大きいので妊娠中の方や、高齢者、高血圧、心臓などに疾患のある方などは、温冷交互浴を控えましょう。

参考:

「温泉ソムリエテキスト」(平成29年8月発行)97頁

「健康の三浴」と転地効果

水浴・大気浴・光浴を「健康の三浴」と言います。温泉に浸かるという水浴は誰もが気付きますが、大気浴とは「海洋浴」(タラソテラピー)や「山間・山麓浴」(トレッキング)、「森林浴」(テルペンの刺激)などの大気の中に身を置くことを言います。光浴は昼間に日光を浴びることですね。普段は街中で生活している人が、気候環境の異なる地に滞在することにより、私たちの心身はその新たな環境に早く適応しようと変調します。これを利用した療法を気候療法と言います。現在の温泉療法は、気候療法と併せて研究が進められています。

干潮の前後2時間だけ入浴できる屋久島の平内海中温泉

現代の心とからだの温泉活用とは

諏訪中央病院名誉院長の鎌田實先生の「がんばらない」という本の中に、私たちが生きている今という時代が「人と人とのつながり」「人と自然のつながり」「からだと心のつながり」の3つのつながりが断ち切られている時代ではないかという趣旨のことを書かれています。
現代に生きる私たちは日々の仕事や生活、子育て、介護などに追われ、ストレスや長期の緊張の中で毎日生活をしています。それらを一度にまとめて癒すことは簡単ではありません。そのような状況に直面した時に、この「三つのつながり」がどうなっているのかを思い直すことも必要なことではないでしょうか?
現代の温泉の活用は、地球が私たちのために処方した自然の漢方薬だと私は考えています。都会の喧騒や日常からひと時離れて、自然が与えてくれた地球の体液に身をゆだねながら、心とからだのつながりを取り戻す。それが現代の温泉療法だと考えています。

湯原温泉 砂湯(岡山県)2014年撮影

皆さん、このコラムを最後まで読んで頂き、ありがとうございます。第1回から第4回の全体を通じて如何でしたか?これまでの温泉に対するイメージや楽しみ方は変わりましたでしょうか? しかし、温泉が心やからだにとって良いことは理解しても、私たちはそう簡単に年に何度も温泉地に行ったりはできないですね。温泉地を効果的に活用したり、近くの日帰り温泉を上手く取り入れたりするには、健康について学び、理解していくヘルスリテラシーの向上が大切です。健康マスター関西会は、個人や家族の健康だけでなく、職域や地域、学域といった集団全体のへルスリテラシーの向上についても活動を行っています。健康マスター認定制度や当会の活動にご興味のある方は、是非当会のホームページからお問い合わせ下さい。会員には関西だけでなく九州、四国など関西以外の方もおられます。

※写真、図表の流用先を記載していないものは、フリー画像、あるいは独自に作成したものです。

現代版 温泉と健康 
~心とからだの湯けむり活用~