【教えて!沿線のお医者さん!】海外に行く前にワクチンは打つべき?(神戸大学+阪神電車)

海外旅行に行く日本人は増加しており、2024年のGWは前年比67.7%増でした。年末年始に海外渡航を予定している人が多いと思いますが、渡航先や活動内容によっては、現地での感染症リスクに備えたワクチン接種が重要です。神戸大学医学部附属病院の岩田健太郎先生にワクチン接種について伺いました。

※この記事は、阪神電車の沿線情報紙「ホッと!HANSHIN」2024年12月号に掲載された情報であり、掲載時点の情報となります。また、駅名表記について、記事に特段記載がない限り、阪神電車の駅となります。

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https://healthcare.hankyu-hanshin.co.jp/doctor/


<教えてくれた先生はコチラ!>

神戸大学医学部附属病院 感染治療学
教授 岩田 健太郎先生
感染症医療の第一線で活躍。著書『ワクチンを学び直す』(光文社新書)などを通じて、感染症対策の重要性を広く発信する。
『当院の渡航外来では、渡航先での感染症リスクに直面した際の24時間365日対応のメールや電話での問合せ、現地クリニックの紹介を行っています。』

●神戸大学医学部附属病院 高速神戸駅→徒歩約15分
https://www.hosp.kobe-u.ac.jp/


Q 海外渡航時、ワクチン接種は必須?

渡航先や目的、滞在期間によってワクチン接種の必要性は異なります。例えば、ハワイへの短期旅行では、必要な予防接種はほとんどありません。しかし、南米やアフリカの一部地域では黄熱(おうねつ)病(蚊媒介性の感染症)が流行しているため、ワクチンを接種していなければ入国が不可能であったり、留学や海外勤務の場合、大学や職場が麻疹などのワクチン接種を義務付けたりするケースもあります。ほかに、A型肝炎やB型肝炎、腸チフス、狂犬病など、地域によって予防接種が推奨されている感染症もあります。A型肝炎は飲み水や食べ物から、B型肝炎は血液や体液を通じて、腸チフスはサルモネラ菌が原因で感染します。狂犬病は犬だけでなくコウモリなどからも感染します。日本では狂犬病に感染することはほぼないのでワクチン接種が一般的ではありませんが、発症すると致死率が極めて高いため、リスクの高い地域に行く際には事前にワクチンを接種することが重要です。まずは、外務省やCDC(アメリカ疾病(しっぺい)予防管理センター)などの信頼できる情報源で、渡航先の感染症リスクを把握し、渡航外来などで推奨されるワクチンを接種するようにしてください。

Q ワクチン接種のタイミングは?

ワクチンによっては効果を得るまでに複数回の接種が必要で、その効果を十分に得るために数週間から数か月かかるものもあります。特に長期滞在や海外赴任、留学などの場合、渡航の6か月以上前に医師に相談し、必要なワクチンの接種スケジュールを立てるのが理想的です。急に渡航が決まった場合だと、2回目以降を現地で接種する方法もあります。また、例えば狂犬病は噛まれたあとにワクチンを接種できるなど、万が一の場合の対応策は存在します。事前にしっかりと準備することが最善ですが、できなくても諦めずに医師に相談しましょう。

Q 発展途上国以外でもワクチンは必要?

ワクチン接種が重視されるのは発展途上国が多いですが、先進国であっても現地での活動内容によって感染症のリスクが高まることがあります。例えば、オーストリアの都市部を訪れる場合はワクチンの必要性は低いですが、森林でのキャンプなどを計画している場合、ダニによる脳炎などのリスクが生じます。渡航外来では、目的などを詳しくヒアリングし、禁忌となる場合がある可能性も考慮して、ワクチンを判断しています。

Q 渡航外来でできることは?

渡航前に必要なワクチンの接種や予防薬の処方、予防策の提案だけでなく、持病のある方への現地での健康管理のアドバイス、渡航先の学校や職場に対する英語による医療書類の作成、帰国後の体調不良にも対応しています。また、時差ボケや高山病の対策など、感染症以外の帰国後の健康問題についても幅広い相談が可能です。

Q 日本にいれば安心?

必ずしもそうとは言えません。日本国内でも、日本脳炎や破傷風など注意すべき感染症があります。日本脳炎は、蚊に刺されて感染する致死率の高い感染症で、日本でのリスクが高いため、外国人へのワクチン接種が推奨されています。破傷風は土壌や動物の体内にいる細菌が傷口から侵入して感染する病気で、特に災害後のボランティアや農作業でのリスクが高いため、10年ごとの追加接種が勧められています。また、高齢者向けのRSウイルス、肺炎球菌、帯状疱疹の予防接種も重要で、妊婦には百日咳のワクチン接種も推奨されます。定期接種以外の情報は通知されないので、公的機関のWEBサイトや専門医の情報を参考にしてください。

Q ワクチン接種以外の感染症対策は?

ワクチンは効果的な感染症予防策ですが、すべての感染症を防げるわけではありません。デング熱などワクチンが一般的でない感染症もあります。ワクチン接種と併せて、現地では蚊に刺されないようにする、動物に近づかない、軽率な性交渉を避けることも重要です。また、渡航先の新型コロナウイルスの流行状況によってはマスクの着用も有効です。飲食面では、生水や氷、生野菜などを避け、水道水ではなくボトルの水を飲むようにしてください。感染症にかかると、軽症で済んだとしても、せっかくの海外旅行が台無しになります。旅行を楽しむためにも対策を取るようにしてください。

 

 

 

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