いざという時も、安心して過ごせる住まいにアップデート

ご自身の被災経験から、「自宅が安全で、電気や水などのインフラが確保できるなら、在宅避難がいちばん」と話すのは、防災士で防災備蓄収納マスタープランナーとしても活躍されている三原麻弓先生です。
三原先生は、安全安心に暮らすことと、部屋を片付けて心地良く素敵に暮らすことの両方をかなえる「防災備蓄収納」を提案し、実践されています。そんな先生のご自宅にうかがい、「魅せる家づくり」のヒントを教えていただきました。


防災士・防災備蓄収納マスタープランナー/三原麻弓先生

<目次>
●いつもの暮らしをできるだけ維持するための防災備蓄
・防災備蓄はすべての人にとって大切なこと
・在宅避難のために用意しておきたい品目リスト
・7日間の避難に必要な備蓄品の量は?
・備蓄品の収納場所と収納のコツ

●リビング、寝室、キッチン。部屋ごとの安全対策
・リビング:置物や花瓶は転倒防止用のジェルで固定
・寝室:眠るそばに、靴と懐中電灯を常備
・キッチン:フックなどを利用し、棚の扉が振動で開くのを防止

 

いつもの暮らしをできるだけ維持するための防災備蓄

防災備蓄はすべての人にとって大切なこと

私は神戸市のマンションで、子育て中に阪神淡路大震災を経験しました。幸い建物は倒壊せず、電気は1日で復旧したものの、水道、ガスが長期間止まり、ライフラインが奪われた中での在宅避難を強いられました。その時に痛感したのが、備蓄の大切さです。「ものを減らせば部屋は片付く」という考え方では災害時を生き延びるのは難しい。できるだけ持たない暮らしをされている方も、最低限必要なもののリストの中に防災備蓄品を加えてほしいのです。

在宅避難のために用意しておきたい品目リスト

それでは、実際にどのようなものを用意しておけばいいのでしょうか。災害時にすぐ必要となるもの、あれば役立つものをリストアップしました。

(1)飲料水
そのまま飲むだけでなく、調理にも必要。日頃飲んでいる飲料水の賞味期限に注意をして少し多めにローリングストック。こまめな管理が難しい方には防災用の長期保存の水の備蓄もおすすめです。

(2)食料
缶詰、瓶詰、レトルト食品、水やお湯を注ぐだけで食べられる食品など。

(3)食器類
プラスチック、紙などでできた食器が安全。

(4)カセットコンロとガスボンベ
ガス、電気が止まった時も温かいものを飲食できる。

(5)停電対策グッズと乾電池
懐中電灯やランタンなどの照明器具は、各部屋に分散して置く。乾電池の予備も用意。防災用に長期(10年)保存できる乾電池もあります。

(6)災害用トイレグッズ
凝固剤とゴミ袋がセットになったトイレグッズ。ホームセンターの防災コーナーなどで入手しておく。停電断水時や地震でも自宅の便器が壊れていない時に便利です。

(7)身体を清潔に保つもの
ウェットタオル、ウェットティッシュ、除菌グッズ、ドライシャンプー、紙のパンツなど。お風呂に入れないことや洗濯ができないことを想定すること。口腔ケアとして、水がなくても口の中を清潔に保てるものもあります。

(8)寒さや暑さ、お天気対策アイテム
冬は使い捨てカイロ、夏はハンディファンが役立ちます。雨具(ポンチョ)やブランケットもあると安心。

(9)常備薬
かぜ薬、頭痛薬、胃腸薬、傷テープなど。

7日間の避難に必要な備蓄品の量は?

いつもの生活をできるだけ維持できるようにすることが、防災備蓄の基本的な考え方です。現在の防災基準では、7日分の備蓄が推奨されています。たとえば、飲料水は大人で1日3リットルが必要量の目安。3リットルに家族の人数と日数(7日)をかけたものが、その家族の1週間の必要量となります。

食料は1日3回(朝・昼・夜)の栄養を考えて、家族の人数分×7日分が必要。私は、それぞれが普段食べているものを基本に、1週間の非常食スケジュール(献立)を考えて、紙などに書き込んでおくことを提案しています。
たとえば、朝ごはんに毎日パンを食べている人は缶パンを7食分用意しておきます。お昼に麺類を食べているならカップ麺を用意。副菜やおかずも同じものばかりたくさん買い込むのではなく、ご自身や家族の普段の食事内容や量、味の好みなどを考えて、その献立にそって備蓄しておくのがおすすめです。
災害用トイレグッズ(凝固剤)も、1日のトイレ回数を目安に、家族の人数分×7日分が必要となります。

備蓄品の収納場所と収納のコツ

家族4人分の備蓄品を収納するには、押入れ半間分のスペースが必要。場所がないという人も、家族の暮らしを守るために必要だと考えて、不要なものを家の外に出し、しっかり収納場所を確保しましょう。

備蓄品の収納に向いているのは、直射日光が当たらない場所。窓際、洗面所、キッチンなどは避け、できるだけ高温にならず、湿気の少ない場所を選びます。押入れやクローゼット、納戸、階段下など、家族全員にとってわかりやすい場所を決めましょう。たとえば、私の自宅の場合は、ソファ下収納も大活躍しています。

備蓄品はラベルなどを貼って分類整理し、出しやすく、すぐ使えるようにしておきます。重いものはできるだけ下のほうに収納し、ネットや滑り止めを使って、揺れてもものが落ちにくいように備えます。

普段使いの食料品や衛生用品を、災害時を意識して少し多めに購入し、もしもに備えることをローリングストックといいます。
缶詰やレトルトなど賞味期限が長いものは、使用期限が近いものから普段の生活で使い切り、新しく買ってきたものは奥にしまいます。先入先出法です。
色々な備蓄は、誕生日や記念日など、日を決めてチェックするといいですよ。
ただし、懐中電灯などの照明器具は一ヶ所に集めず、各部屋にまんべんなく置いておくのもポイントです。

リビング、寝室、キッチン。部屋ごとの安全対策

リビング:置物や花瓶は転倒防止用のジェルで固定

インテリアを楽しみながら安全性も考えたいリビング。置物や花瓶、小物類などは、転倒防止用のジェルで固定しておくのがおすすめ。このジェルは美術工芸品を固定するために開発され、品物を傷つけずに貼ったり剥がしたりできます。
テレビもホームセンターなどで買える耐震マットで固定しておきましょう。絵画のフレームはガラスをはずしておくと安心です。

寝室:眠るそばに、靴と懐中電灯を常備

家の中で最も安全性にこだわりたいのが寝室です。寝たとき頭部の上になる場所にものを置かないのは基本。ベッドなどの下にはスリッパではなく、靴を置いておきましょう。靴があれば、ガラスなどの破片が床に落ちていても足を傷つけずに逃げることができます。また、懐中電灯もできるだけ眠るそばに置いておくと、停電した時に周囲の様子を確認するのに役立ちます。

キッチン:フックなどを利用し、棚の扉が振動で開くのを防止

食器棚や食品庫は、突っ張り棒で倒れないように固定し、重いものを棚の上や高い位置の吊戸棚には置かないようにします。また、棚の扉が地震の揺れなどによって勝手に開き、中に入れた食器などが飛び出てしまうのを防ぐための専用の耐震ラッチがついていない場合には、ウレタン製で自在に曲げられる棒やS字フックなどを利用して取手を固定しておくと安価ですが安心です。

三原先生からのメッセージ

防災備蓄はすべての人の安全安心のために大切なこと。でも、難しく考える必要はありません。まずはお口に合う、おいしい缶詰やレトルト食品を見つけることから始めてみてはいかがでしょうか。災害の時はいつも以上に、おいしいものがあればホッとしますよ。
ネットショップやホームセンターの防災コーナーには、役立つグッズや食品もたくさん並んでいます。スーパーやドラッグストア、100円ショップの旅行用品コーナーなどでも工夫次第で使えるものが見つかります。普段の生活の中で、楽しみながら防災や備蓄を意識してみてください。


暮らし防災アドバイザー
防災士・防災備蓄収納マスタープランナー
三原麻弓先生
「防災備蓄収納暮らし」代表。兵庫県神戸市灘区で子育て中に阪神淡路大震災を経験。東日本大震災後、さらに防災意識を高め、2018年より防災備蓄収納マスタープランナー、防災士として活躍。現在、一般社団法人防災備蓄収納プランナー協会指定講師。テレビ、雑誌などのメディアへの出演・執筆、行政や企業からの依頼でセミナー・講演会でも活躍中。