【教えて!沿線のお医者さん!】下痢(げり)や腹痛が続くのは「炎症性腸疾患(えんしょうせいちょうしっかん)」が原因かも?(神戸大学+阪神電車)

繰り返す下痢や腹痛はストレスが原因だと思っていませんか。もしかすると、炎症性腸疾患かもしれません。特に若い人は、検診などで内視鏡検査を受ける機会が少ないため、病気が見過ごされがちです。そこで、神戸大学附属病院の大井 充先生に、症状や検査・治療法について詳しくお話を伺いました。

※この記事は、阪神電車の沿線情報紙「ホッと!HANSHIN」2023年12月号に掲載された情報であり、掲載時点の情報となります。また、駅名表記について、記事に特段記載がない限り、阪神電車の駅となります。

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<教えてくれた先生はコチラ!>

神戸大学医学部附属病院 消化器内科
助教 大井 充先生
小児の内視鏡検査を実施可能な施設であることから、近年は成人に加えて、小児の炎症性腸疾患患者の診断・治療も積極的に行う。
『小児の内視鏡検査により、炎症性腸疾患を早期発見できる機会が増えています。お困りの際は、主治医の先生を通じてご相談ください。』

●神戸大学医学部附属病院 高速神戸駅→徒歩約15分
https://www.hosp.kobe-u.ac.jp/


Q 炎症性腸疾患とは?

炎症性腸疾患(IBD)は、食物や消化物が通過する腸管に、慢性的な炎症が生じる疾患の総称です。「潰瘍性(かいようせい)大腸炎」と「クローン病」の二つの病気があります。潰瘍性大腸炎は、多くの場合大腸のみに起こり、粘膜に炎症が生じてびらんや潰瘍を形成しますが、直腸だけの範囲の狭いタイプや、大腸全体に広がっているタイプなど、病気の範囲でいくつかのタイプに分かれます。クローン病は、口から肛門まで消化管のどの部位でも発症する可能性があり、特に小腸と大腸のつなぎ目である回盲部(かいもうぶ)や肛門周辺でよく起こります。潰瘍性大腸炎は20~30代、クローン病は10代後半~20代前半に多く発病します。若年層で発症し軽症であると、長年医師の診察を受けずに、中高年になってから発覚するケースもあります。どちらの疾患も難病に指定されていますが、2015年以降は軽症患者が特定疾患給付金の受給対象から除外されたため、現在の正確な患者数の把握が難しい状況にあります。2014年までのデータを元に推定すると、潰瘍性大腸炎の患者数は軽症も含め22万人以上、クローン病の患者数は6万人以上にも及んでいる可能性があります。男女比は、潰瘍性大腸炎ではほぼ同じですが、クローン病では男性の患者数が女性の約1.5倍となっています。

Q 原因は何?

正確な原因は、現在明らかになっていませんが、免疫異常によって引き起こされると考えられています。潰瘍性大腸炎は、通常は大腸内で共生関係にある腸内細菌に対し、慢性的な炎症反応を起こしているとされています。また、クローン病は、特に免疫系が発達している小腸で、本来吸収すべき食べ物に対して排除反応を示して炎症を起こしていると考えられています。どちらの病気も遺伝的な要因だけでなく、喫煙・食生活などの後天的な要素も関与していると思われます。

Q どんな症状が現れる?

潰瘍性大腸炎は、浅く広い範囲に粘膜がただれることから、下痢や血便の症状が現れます。クローン病は、消化管全体に不連続に強い炎症が起こるため、下痢や血便が必ずしもあるわけではありませんが、炎症のある部分の痛みや発熱、体重減少がよくみられます。約70~80%の患者さんが、肛門周辺のトラブルを抱えており、肛門周囲膿瘍(のうよう)(膿がたまる状態)や痔瘻(じろう)(穴があく状態)などの症状があります。そのため、若い方は痔の症状をきっかけにクローン病が発見されるケースもあります。

Q 放置するとどんなリスクがある?

潰瘍性大腸炎は、急に進行して重症化し、大腸や肛門に穴が開いたり大出血を起こしたりし、入院や手術が必要になる危険性があります。長期間経過すると大腸がんへと進行するリスクが非常に高くなります。特に10代などの非常に若い患者さんにとっては、将来のがん化を防ぐための積極的な治療が必要です。クローン病は炎症が強いため、進行すると腸同士にトンネルのような穴(内瘻)が開いたり、小腸が狭くなったりして(腸閉塞)、外科手術なしでは寛解を維持できなくなります。手術後も再発する可能性が高く、複数回手術を行って短腸症候群になると、点滴や栄養剤などのサポートなしには、必要なカロリーを摂取することが難しくなります。炎症性腸疾患は本来は生命予後に影響しない病気ですが、前述の合併症まで進展すると悪化させる可能性があります。

Q 検査方法について教えて!

どちらの病気も基本的には大腸カメラを用いた内視鏡検査を行います。クローン病はさらに胃や小腸の状態も調べるために、胃カメラや小腸のカプセル内視鏡も使用します。患者さんの中には内視鏡検査に対する不安があるかもしれません。そこで、一般的な血液検査に加えて、腸の炎症を調べるLRGや、便中カルプロテクチン(便に排出される腸の炎症マーカー)などを測定することで、炎症性腸疾患の可能性を推測し、内視鏡検査の必要性を判断することができるようになりました。

Q 治療法は?

重症度によって異なりますが、潰瘍性大腸炎では腸の炎症を抑える薬物療法が中心です。ここ数年でたくさんの薬剤が登場し、難治例でも個々の患者さんに合った薬が処方できるようになりました。クローン病においては食事の影響を無視できず、寛解を維持するためには食事制限や栄養療法がある程度は必要ですが、近年登場した生物学的製剤が特に効果的で、以前ほどタイトな食事制限の必要がない患者さんが増えてきました。現在も多くの薬が開発中で、将来的には完治を目指せるかもしれません。その日まで、治療を続けていただくことが大切です。

 

 

 

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