【健康・未病と毛細血管】第3回「体の中のコゲと老化と毛細血管」

私は普段、抗加齢・予防医療センターで抗加齢の研究をしています。大きな血管の老化である心筋梗塞や脳梗塞から、毛細血管の老化の医学研究を行っています。近年は「老化」の研究が進み、老化を促進する要因が次々と明らかになっています。その代表が、酸化(サビ)と糖化(コゲ)です。本連載では前回までに渡辺先生から酸化(サビ)のお話しがありましたので、私のコラムでは2回にわたって糖化(コゲ)のお話しをいたします。


筆者:伊賀瀬 道也 氏
愛媛大学医学部卒、同大学院医学系研究科修了(医学博士)、同附属病院、公立学校共済組合近畿中央病院勤務の後、愛媛大学医学部老年科助手、米国Wake Forest大学・高血圧血管病センター・リサーチフェロー、愛媛大学医学部加齢制御内科講師、同附属病院抗加齢予防医療センター長、同老年神経総合診療内科准教授、同特任教授を経て、同大学院抗加齢医学(新田ゼラチン)講座教授(現職)Wake Forestリサーチデイゴールドアワード(第1位)、ノバルティスアワードなど受賞。原著英語論文287報など。


老化を加速させるコゲ

体のなかで増える「コゲ」とはどういったものでしょうか。
人の軟骨を使った研究で、若いうちは白色だったコラーゲン組織が加齢により茶色みを帯び始め、65歳以上ではこげ茶色になることが報告されました。これは“糖化”と呼ばれ、組織の中のたんぱく質と糖質が結びつき、さらに体温の熱の影響で徐々に変化する現象です。この茶色の物質が体の中で増える『コゲ』で、最終糖化産物;AGEs(Advanced Glycation End-products)と呼ばれています。

図:糖化のイメージ

この図にあるように、まさしく食品を焼いた時にできる“おこげ”と同じ現象で、このAGEsが体内の細胞や組織に与える影響が、老化の主たる要因の一つと考えられています。
血液検査にHbA1c(糖尿病の診断基準)という項目がありますが、これはたんぱく質のヘモグロビンに糖が結合したAGEsの前駆体の一つです。人間の体はたんぱく質でできており、糖化は体の至る所で起きます。皮膚にAGEsが蓄積されるとシミやシワ、目は白内障、骨は骨粗鬆症、脳は認知症、大血管だと心筋梗塞や脳梗塞といった具合です。AGEsの増加要因は、糖質過剰、食品中のAGEs、酸化ストレスなど、どれも「悪い生活習慣」からくるものばかりですね。

糖化とゴースト血管

皆さんはどんな時に年を取ったなと感じますか?シミやシワが増えた、疲れが抜けない、目が見にくいなど、見た目の変化や不調で感じられると思いますが、その老化には血管が深く関係しています。近年よく聞かれる「ゴースト血管」は、加齢や生活習慣の影響で劣化・老化が進み機能しなくなった毛細血管のことを言います。

図:健全な血管と老化状態の(ゴースト)血管

毛細血管を構成する周皮細胞は、糖化や酸化に弱く、その影響で血管の形状が変化しその機能が弱まります。最悪の場合、この写真のように血流を流せないサヤだけの血管;ゴースト血管となるのです。このゴースト血管が、老化や不調、未病の原因の一つと考えられています。

図:ゴースト血管の画像

あっと社の毛細血管計測技術を使った東北大学医学部での研究では、毛細血管のゴースト化状態や形状の測定値が、糖尿病性網膜症の網膜の血管状態が強く相関していることがわかりました。このように、AGEsと毛細血管の老化、そして関連する疾病について医学的研究が加速しています。

人は血管と共に老いる

老化とゴースト血管についての典型的な事例をお話しします。
この写真は、骨の中の血管を特殊な技術で撮影したものです。緑色に着色されたところが血管ですが、とてもたくさんありますね。骨は十分な強度を維持するためにその内部に多くのコラーゲン組織が必要ですが、そのためには、毛細血管により骨を形成する細胞に酸素や栄養を十分に供給することが必要です。

図:骨の中にある毛細血管

では、この毛細血管が減るとどういったことが起きるでしょう… 骨粗鬆症です。加齢により骨組織の密度が減少し骨折しやすくなる女性に多い症状です。2014年にドイツの研究者が、骨の毛細血管が年齢とともに減っていくことが、骨粗鬆症の原因の一つだろうと報告しています。毛細血管が減る理由としては更年期からの女性ホルモンのエストロゲンの分泌が減少することが言われています。さらに、糖化が、毛細血管の健全性を損なったり、骨の育成を直接抑制したりする可能性が報告されています。

19世紀のイギリスの著名な医学者トーマスシデナム博士は、「人は血管と共に老いる」という言葉を残しましたが、体内の血管の99%は毛細血管ですから、「人は毛細血管と共に老いる」と言うのが正しいかもしれません。

毛細血管とオプティマルヘルス

さて、アンチエイジング(抗加齢)という言葉はすっかり定着しましたが、みなさんに紹介したい言葉があります。「オプティマルヘルス」という言葉で、「年齢ごとの最高・最善の心身状態を目指す健康観」を意味します。ヘルス、ウェルネスに続く健康観として位置付けられ、近年米国で定着し始めています。その人にとっての「最高・最善の健康」とは、病気の治療や予防はもとより日常生活の中でより高い健康を実現し、周りの環境や人たちとより良い関係性を構築する、そうした生き方全体への取り組みが求められる健康観です。

図:オプティマルヘルスとは健康を超えた健康観;“超健康”

この、オプティマルヘルスを目指すには、老化をなるだけ抑制するアプローチが重要です。お分かりの通り、まずは糖化(コゲ)を増やさないこと、そうして毛細血管をなるべく健全に保つよう努力することが大切です。こうして、健康よりも良い健康状態;超健康(オプティマルヘルス)を目指しましょう。

では、次回(8月)のコラムにて、その糖化対策について詳しくお話しします。

 

この連載では、毛細血管スコープ、計測技術のあっと株式会社のコラムページと連携しています。毛細血管計測や、この記事について詳しい内容があっと社のコラムページで提供されています。

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