【教えて!沿線のお医者さん!】今注目の治療法「IVR」って何?(神戸大学+阪神電車)

IVRとは、Interventional Radiology(インターベンショナル・ラジオロジー)の略で、日本語では「画像下治療」と訳します。1960年代にアメリカで始まった技術で、日本でも多くの医療に導入されていますが、まだ認知度が高いとはいえません。神戸大学医学部附属病院の村上卓道先生に詳しく伺いました。

※この記事は、阪神電車の沿線情報紙「ホッと!HANSHIN」2022年12月号に掲載された情報であり、掲載時点の情報となります。また、駅名表記について、記事に特段記載がない限り、阪神電車の駅となります。

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<教えてくれた先生はコチラ!>

神戸大学医学部附属病院 放射線診断・IVR科
教授/診療科長 村上 卓道先生
腹部の画像診断とIVRを専門とする。日本医学放射線学会の副理事長を務め、海外との交流やIVR専門医の育成にも尽力する。
『当院は日本の中でもIVR専門医が多く在籍しており、IVR外来も設置しています。IVRに興味のある方はかかりつけ医に相談のうえ、ご来院ください。』

●神戸大学医学部附属病院 高速神戸駅→徒歩約15分
https://www.hosp.kobe-u.ac.jp/


Q IVRとは何?

X線やCT、MRI、超音波などで体の中を確認しながら、カテーテル(細い管)や針など細い医療器具を体内に挿入して行う治療法のことです。外から見えない体内の病変をピンポイントで治療することができます。IVRの最大のメリットは、患者さんの体にかかる負担が非常に少ないこと。医療器具を挿入するために開ける傷は数mm程度で済み、外科手術のように大きく体にメスを入れたり、縫ったりしません。医療器具が体の中に入ってしまえば痛みを感じることも少ないので、多くの治療は、挿入部の局所麻酔で行うことができます。入院期間も短く、治療後の社会復帰が早くなります。

Q 具体的にどのように治療するの?

IVRは大きく分けて、血管の中で行う治療と、血管の外で行う治療があります。血管の中で行う治療は、まず細い筒に入った針を皮膚に刺し、血管まで到達したら針だけを抜いて、残った筒の中にガイドワイヤー(柔らかい針金のようなもの)を通し、ワイヤーに沿わせて治療を行うためのカテーテルを挿入する「セルジンガー法」が一般的に用いられます。セルジンガー法が発明されるまでは、胸部大動脈や頸(けい)動脈を直接針で刺していたので、針を抜いた後、多量の出血をきたす危険がありました。セルジンガー法では、手首や足の付根などの末梢血管から針を刺すことができ、安全に血を止めることができます。血管の外で行う治療は、患部に直接針を刺して、膿を抜いたり、腫瘍を焼いたり、骨を補強したりします。

Q IVRを行うのはどんなとき?

血管の中で行う治療で多いのは、救急時の止血です。例えば、交通事故などで脾臓(ひぞう)が破裂したときに、お腹を切開して出血箇所を突き止めて止血するより、CTで出血箇所を特定し、脾臓の血管にカテーテルを挿入して血管を詰めるほうが、素早く安全に止血できる場合が多いです。また、動脈硬化で狭くなったり詰まったりした血管に、バルーン(風船)やステント(筒状の器具)を入れて広げたり、動脈瘤(りゅう)にコイルを詰めて破裂を防いだりすることもできます。さらに、がんや子宮筋腫などの腫瘍に栄養を届ける血管を詰めて兵糧攻めにすることもできます。特に肝細胞がんのIVRは、日本で開発されて発展した治療です。通常人間の臓器は動脈から栄養を得ていますが、肝臓は門(もん)脈という静脈と肝動脈の2系統で栄養を受け取り、そのうちの約70%の栄養を門脈から受け取っています。一方、肝細胞がんは99%の栄養を肝動脈から受け取っているので、IVRで肝動脈を詰めると、がんは栄養を取れずに死滅します。肝動脈を詰めても門脈から栄養は受け取れるので、肝臓自体にはさほど影響がありません。

Q IVRが向いていない病気はある?

IVRは幅広い病気の治療に使えますが、状況に応じて内視鏡や外科的手術、投薬治療、放射線治療など、IVR以外の治療法が適していることもたくさんあります。というのも、治療部位によってはリスクが大きい場合もあるからです。そのため、治療法については各分野の専門医同士がよく話し合って、病状や患者さんの年齢、環境など、あらゆることを考慮して適切な方法を選択し、インフォームド・コンセント(医師と患者が十分な情報を共有して合意を得ること)を行います。

Q IVRで血管が傷ついたり被曝したりする危険はある?

現在のカテーテルは非常に進化していて、先端が柔らかい素材でできているので、専門医が行う限り、血管を傷つけることはほぼありません。また操作中は、終始X線透視を使用するわけではなく、ペダルを踏むとX線が照射されるようになっています。IVR時に照射する放射線量は安全な範囲で収まるように調整していますので、体に障害がでるほどの被曝はありません。

Q IVRの治療を希望するには?

かかりつけ医にIVRでの治療が可能かどうかを確認し、IVR専門医がいる病院への紹介を受けてください。しかし、残念ながらIVRは、患者さんはもちろんですが、医師にもまだまだ浸透していないのが日本の現状です。また、IVRは放射線科で行いますが、すべての放射線科医がIVRを行えるわけではありません。IVR専門医になるには、医師の初期研修を2年間受けた後、3年間の放射線科専門医研修と、さらに3年間の放射線診断およびIVR専門医研修を受けなければならず、医学部を卒業後8年目にようやくIVR専門医試験を受験することができます。画像を見ながらカテーテルを患部まで進めるには技術が必要です。そのため、IVR専門医の数は少なく、すべての医療機関でIVRが受けられるわけではありません。IVRが可能な場合でも提案されないことがあり得ます。そこで、患者さん自身がIVRという治療の選択肢があることを知り、進んで医師に尋ねてみることも大切です。

 

 

 

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