子どもの弱視について知ってほしい!視力の発達について描いた絵本「さっちゃんのめがね」著者インタビュー

絵本「さっちゃんのめがね」は、糖尿病の専門医として45年以上にわたって地域医療に携わってきた井上朱實(あけみ)さんが、長年の知り合いだった眼科医のエピソードを元に作り上げた、子どもの視力の発達や弱視がテーマの絵本。

なぜ、この絵本を出版するに至ったのか、絵本を通じて伝えたい思いとは…?
井上先生と、絵を担当した小北美子さんにお話を伺いました。

左:井上朱實さん、右:小北美子さん

「さっちゃんのめがね」を出版されたきっかけについてお聞かせください。

井上:
これまで糖尿病専門医として多くの患者さんと向き合ってきた中で、糖尿病が原因で視力を失ってしまった方を何人も見てきました。少しでも知見を広げようと関連の学会や研修会などに参加していた時に、この絵本を作るきっかけとなった川端清司先生にお会いしたのです。

元々、糖尿病の医師だった川端先生とは、私の研修医時代に面識があったのですが、後に眼科医として診療所を開業されていました。その先生から、眼科医として30年にわたり子どもたちと関わってきたことをまとめた冊子をいただいたんです。

その中にあった、弱視の女の子の「声と匂いで(保育園に迎えに来た)お母さんを見つけた」という言葉に衝撃を受け、その言葉をもっと多くの人に伝えたいと思いました。

そもそも、子どもの弱視とはどういう眼の状態のことをいうのでしょうか。

井上:
子どもの視機能は生まれてから徐々に発達し、3~6歳で視力が1.0程度になります。「弱視」とは、8歳くらいまでとされる視覚の感受性期に発達が妨げられて、十分な視力が得られないままの状態のことを言います。

3歳くらいで治療を始めれば、早い段階で視力が回復する可能性があるのですが、そもそも「明瞭に見える」状態がどういったものかを体験していない弱視の子どもは、自分が「見えにくい」のだとは言いません。だから、親をはじめとする周りの大人も、目の前の子どもが弱視であることに気付かないことが多いんです。

先にお話しした女の子は、川端先生に出会ってめがねをかけ始めるまで、「お母さんが見えない」とは言えず、声と匂いでお母さんを探していたんですね。

今回、絵本という形で出版されたのにも理由はあるのでしょうか?

井上:
本を作るきっかけになった「声と匂いでお母さんを見つけた」という言葉を目にしたときに、幸せな絵が浮かんできたんです。

表紙の絵でも表現しているのですが、色とりどりのお花畑の景色は、ぼんやりとしているけれど色彩豊かに映っているんですね。子どもの弱視の程度や視力低下の状態は様々ですが、弱視だからといって暗闇の世界を見ているのではない。弱視の子どもたちが見ている、様々な色にあふれた楽しい世界を、明るくきれいな色の絵で伝えたいと思いました。

そこで、以前からの知り合いで、澄んだ色の表現が得意な小北さんに、絵を描いていただくことにしたんです。今回描き下ろしていただいた絵は、本当に鮮やかで私のイメージ通り! 絵から想像を広げてほしいので、文字をできる限り減らしました。

小北:
実は私の息子も弱視だったのですが、それを知ったのは息子がある程度成長してからのことだったんです…。学校の先生からの指摘で眼が非常に悪かったのだとわかり「なぜ親の自分がもっと早くに気付いてあげられなかったのだろう」という悔いがありました。

ですから、井上先生からこの絵本のお話をお聞きしたとき、自分の体験が重なり、ぜひ多くの方に子どもの弱視について知っていただきたいと思い、喜んでお引き受けしたんです。

子どもの眼の異常に早く気付くにはどうすればよいでしょうか。

井上:
まずは身近な大人が「この子はどのように見えているのかな?」と、視線や普段の様子に関心を持つことが大切です。子どもの態度や行動に違和感があると、発達障害などの脳の異常を疑うことが多いかもしれませんが、実は眼が見えにくいことが原因で、そのストレスから癇癪(かんしゃく)を起こしたり、黒板の文字を認識するのに時間がかかるために勉強が苦手だったりする場合もあるわけです。ですから、少しでも気になることがあれば、早めに眼科を受診しましょう。できれば子どもの眼に理解の深い先生に診てもらうのがおすすめです。

とはいえ、仕草には表れない場合もありますので、市町村単位で実施される3歳児健診の視機能検査の内容をもっと充実させて、早期発見・治療の可能性を高めることも必要だと思っています。

最後に、この絵本を通じて伝えたいことをお聞かせください。

井上:
この絵本を作る過程で色々と調べる中、視覚に限らず子どもの感覚障害が多いということを知りました。感覚障害は外見ではわかりづらいうえに、言葉が未発達の子どもは自分の状態をうまく表現できないので、見過ごされてしまいます。そういったことを減らすため、視覚検査においては、異常を発見するための検査内容の充実化が進み、眼科医と視能訓練士との連携などが今以上に増えていくことを切に願います。

この絵本をきっかけに、身近な子ども、そして子どもを取り巻く環境に、これまで以上に目を向ける方が増えてくれるとうれしいです。

 


 

「さっちゃんのめがね かたちをみるちからをそだてる」
1,650円
著者/文・井上朱實、絵・小北美子、監修・川端清司
幻冬舎メディアコンサルティング 刊

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