【教えて!沿線のお医者さん!】インフルエンザワクチンは接種したほうがいいの?(神戸大学+阪神電車)

毎年冬が近づくと注意したいのがインフルエンザ。感染して発症すると、38℃以上の高熱、頭痛、関節痛などの症状が急速に現れ、重症化すると入院や死亡に至るケースもあります。そこで、改めてインフルエンザワクチン接種の必要性について、神戸大学医学部附属病院の宮良高維先生に詳しくお話を伺いました。

※この記事は、阪神電車の沿線情報紙「ホッと!HANSHIN」2021年12月号に掲載された情報であり、掲載時点の情報となります。また、駅名表記について、記事に特段記載がない限り、阪神電車の駅となります。

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<教えてくれた先生はコチラ!>

神戸大学医学部附属病院 感染制御部
部長 特命教授 宮良 高維先生
様々な病院で、病院感染の日頃の予防対策の先導や、外から持ち込まれるウイルスの伝播(でんぱ)防止に携わる。病院職員のワクチン接種状況を管理したり、医学生に対してワクチンについての講義も行う。

●神戸大学医学部附属病院 高速神戸駅→徒歩約15分
https://www.hosp.kobe-u.ac.jp/


Q インフルエンザワクチンとはどのようなワクチンなの?

副反応が極めて少ない安全なワクチンのひとつです。インフルエンザウイルスは、HA(ヘマグルチニン)というトゲのように突き出た部分が、体内の細胞のシアル酸という物質に結合して細胞内に入り込み、増殖を始めます。インフルエンザワクチンは、分解したウイルスからHAの部分を中心に取り出して入れたワクチン(不活化ワクチン)で、注射を打つと、体内の免疫を担当する細胞が“異物が入ってきた”と反応して、HAに対する抗体(異物が入ってきた時に無毒化したり、他の免疫細胞に働きかけて攻撃・排除・分解したりする)を作ります。すると、次にインフルエンザウイルスが入ってきたとしても、この抗体が働きHAが機能しなくなるのです。HAの成分を中心とするインフルエンザワクチンは1970年代前半に開発され、効果が認められて以来、世界中で繰り返し使用されています。

Q 水痘(すいとう)、はしか、風疹、新型コロナウイルスのワクチンと異なる点は?

インフルエンザワクチンは、ウイルスを分解して作ったワクチンで、生きたウイルスは入っていません。一方、水痘、はしか、風疹のワクチンは、生きているウイルスの病原性を弱めて作ったワクチン(生ワクチン)です。生ワクチンは体内でウイルスが増殖するので、その分免疫力も高まり、不活化ワクチンよりもよく効き、長期間効果が持続します。新型コロナワクチンは、インフルエンザワクチンと同じように生きたウイルスは入っていません。しかし、HAではなく、mRNA※を入れた、製造法の全く異なるワクチンで、ハンガリーからアメリカに渡った女性研究者が40年間研究して開発したものです。生きたウイルスを入れずに有効率(ワクチンを接種しなかった人が接種していたとしたら、どれだけ発病を防ぐことができたかを表す割合)が90%以上と、非常に高い効果が得られるのは驚異的で、インフルエンザワクチンにも、この製造方法を導入しようとする試みが始まっています。

※mRNA(メッセンジャーRNA)
元々体内にある遺伝物質で、遺伝子情報をコピーしてタンパク質を合成する働きがある。ファイザーやモデルナ社製の新型コロナウイルスワクチンは、このmRNAの性質を利用し、ウイルスの突起部分(スパイクたんぱく質)の遺伝子情報をコピーしたmRNAを人工的に作り、体内で突起部分だけを大量に合成させる。合成された突起部分は体内で異物と判断されるため、多くの抗体を作ることができる。

Q インフルエンザワクチンを接種すればインフルエンザにかからない?

インフルエンザワクチンの有効率は50~60%だといわれています。注射によるワクチン接種では血液内に抗体が作られますが、インフルエンザウイルスは鼻や喉、目などの血管がない粘膜上に感染するため、血液の中を回るウイルスに比べて免疫を獲得しにくい傾向があります。また、生ワクチンと異なり、不活化ワクチンは体内でウイルスが増殖しないため、免疫力を賦与(ふよ)できる量が少なくなります。しかし、感染するインフルエンザウイルスの量を減らすことができるので、全く効かないということはありません。感染しても、発症しないか、発症したとしても重症化を抑えることができます。実際、ワクチンを接種する人が増えると、入院や死亡率が大きく下がることが分かっています。

Q 特に接種するべき年代や職種の人は?

特に65歳以上の高齢の方、心臓や肺、腎臓に基礎疾患をお持ちの方は、インフルエンザにかかると重症化や、基礎疾患が悪化しやすいため、接種することをおすすめします。このような方々は定期接種(公費補助あり)を受けることができます。また乳幼児は、インフルエンザにかかった経験が少ないので、免疫を賦与する意味でインフルエンザワクチンは有効であると考えられます。そのほか、医療従事者の方やいろいろな人と接するお仕事に就かれている方は、接種しておくと家族にうつすリスクを減らせるでしょう。

Q 毎年接種したほうがいい?

インフルエンザワクチンで作られた免疫の効力が持続するのは4か月程度だといわれています。また、インフルエンザは毎年流行する型が異なるため、北半球では、南半球で夏に流行した型を参考に、ワクチンを毎年製造しなおしています。ですので、毎年の接種をおすすめします。インフルエンザが流行するのは12~4月頃、ピークは1月末~3月上旬ですので、12月中旬までに接種するといいでしょう※。接種回数は、原則13歳以上の方が1回、13歳未満の方は2回とされています。

※新型コロナワクチンとインフルエンザワクチンは、2週間以上あけて接種することが推奨されている。

Q ワクチンは接種したほうがいいの?

例えば新型コロナウイルスに感染し発症すると、何か月もかけてリハビリをしなければいけなかったり、長く後遺症に悩まされたりする可能性があります。はしかは現代の日本でも約1,000人に1人が死亡していて、重症化したり、脳炎を起こしたりする方もいます。また、風疹は妊婦さんがかかると、胎児に感染して先天性風疹症候群という障害を引き起こすことがあります。日本では特に、ワクチンの副反応を心配して接種をためらう方が多いようですが、たくさんの人智や経験、試験を経ているものですので、重篤な副反応は滅多にありません。アレルギー反応を起こした場合はきちんとした治療を行えば半日で治ることがほとんどで、熱や頭痛があっても通常3日以内で回復します。自分が感染しないのはもちろんですが、周囲に感染させないためのワクチンであることも心に留めていただき、できればこれらのワクチンを接種することをおすすめします。
ワクチンの情報は誤った内容が伝えられることもあるので、正確な情報を知りたい時は、日本感染症学会、日本産婦人科学会、日本小児科学会、厚生労働省といった公的な機関や学術団体のホームページ、学会のコメントなどを参考にしてください。

 

 

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