【教えて!沿線のお医者さん!】リモートワークが外耳炎の原因に!?(兵庫医科大学+阪神電車)
最近、リモートワークでイヤホンを装着する時間が増えたことで、外耳炎を発症する人も増加傾向にあるといわれています。心当たりはあるものの、耳鼻科を受診したほうがいいのか悩む人も多いのではないでしょうか。そこで、外耳炎に関する正しい知識や治療法を、兵庫医科大学の大田重人先生にお聞きしました。
※この記事は、阪神電車の沿線情報紙「ホッと!HANSHIN」2021年9月号に掲載された情報であり、掲載時点の情報となります。また、駅名表記について、記事に特段記載がない限り、阪神電車の駅となります。
「教えて!沿線のお医者さん!」のバックナンバーはこちらからご覧いただけます。
https://healthcare.hankyu-hanshin.co.jp/doctor/
<教えてくれた先生はコチラ!>
兵庫医科大学 耳鼻咽喉科・頭頸部外科学
講師 大田 重人先生
耳科学一般、特にめまいや難聴、耳管開放症などの診療と治療をテーマに研究を進める。外耳炎から派生する顔面神経麻痺や難聴の治療にも取り組む。
『イヤホンの長時間に及ぶ装着は、外耳炎だけでなく騒音性難聴の原因にもなります。特に大きな音を流し続けないようにしてください。』
●兵庫医科大学病院 武庫川駅→徒歩約5分
https://www.hosp.hyo-med.ac.jp
Q 外耳炎はどんな病気?原因は?
外耳道(耳の入口から鼓膜までを結ぶ長さ3cmほどの通り道)の皮膚が細菌や真菌(カビ)に感染して、炎症が起こる病気です。原因の多くは過度な耳掃除で、外耳道の皮膚を傷つけてしまい、そこから細菌に感染して炎症を起こします。また、イヤホンや補聴器の挿入も外耳炎を招く原因のひとつ。器具が皮膚を傷つける可能性があるだけでなく、耳をふさぐことで耳の中が湿気を帯び、細菌や真菌が繁殖して感染しやすくなります。他には、中耳炎による耳漏(じろう)(耳だれ)の付着、長期的な抗菌薬・ステロイド薬の服用、化学療法・放射線療法の副作用、アレルギー、ストレスなどにより生じた外耳道皮膚の炎症(神経性皮膚炎)でも細菌に感染しやすくなり、外耳炎を発症することがあります。
Q どんな症状があるの?
主な症状はかゆみで、炎症が進むと耳痛(じつう)や耳漏も発生します。耳介を引っ張ると痛い(牽引痛)時や、耳の前方(耳珠)を押すと痛い時は、外耳炎の可能性があります。悪化すると、外耳道が閉塞して耳閉感や難聴を引き起こします。炎症が広がると、耳の周囲も赤く腫れ上がったり、付近のリンパ節が腫れたりするほか、顎(がく)関節の痛み、悪寒、発熱を伴うこともあります。特殊なケースでは、水痘帯状疱疹(すいとうたいじょうほうしん)ウイルス※1に感染して、顔面神経麻痺、難聴、めまいを合併し、後遺症を残すことがあります。また、高齢者で糖尿病の基礎疾患がある方が耐性菌※2に感染すると、炎症が骨にまで及ぶ悪性外耳道炎になり、髄膜(ずいまく)炎※3やS状静脈洞血栓(じょうみゃくどうけっせん)症※4など命に関わる病気を合併する可能性があります。また、ごくまれに外耳炎症状から悪性腫瘍(外耳道がん)が発見されることもあります。あまり軽視せず、耳の症状が1日以上続く場合は、耳鼻科の受診をおすすめします。
※1 水痘帯状疱疹ウイルス
水ぼうそうのウイルス。子どもの頃にかかった水ぼうそうが治癒した後も体内に潜み、免疫が低下した際に再活性化することがある。
※2 耐性菌
抗菌薬が効きにくくなった細菌。緑膿菌やMRSAなどがある。
※3 髄膜炎
脳の周りを覆っている髄膜が細菌に感染して炎症を起こす。
※4 S状静脈洞血栓症
心臓から脳に送られた血液が再び心臓に戻る際に集まる静脈洞のうち、S状静脈洞といわれる部分に血栓ができる。
Q どんな治療をするの?
生理食塩水での耳洗浄や抗菌薬・ステロイド薬の点耳(てんじ)を行います。炎症が皮下組織やリンパ節にまで及んでいる場合には抗菌薬の内服や点滴、痛みが激しい場合には鎮痛薬の内服を使用します。毛根の周囲に炎症が起きて膿がたまっている場合には局所麻酔をして切開し、膿を取り除きます。炎症が治るまでは、イヤホンや補聴器の使用は控えてもらいます。
Q イヤホンを付けるときの注意点は?
耳に合っていないイヤホンや堅い素材のものを、無理矢理に長時間耳へ押し込んでいると、外耳道の皮膚を傷つけて、外耳炎の原因になります。柔らかい素材で自分の耳にあったイヤホンを選び、使用は短時間にするのがよいでしょう。長時間使用しなければならない場合は、スピーカーやヘッドホンで対応するのもおすすめです。
Q 耳掃除のやり過ぎはよくないの?
外耳道には自浄作用があり、鼓膜から外に向かって皮膚がゆっくり移動し、上皮(皮膚の垢)を排出しています。耳の入り口から深さ1/3(約1cm)までの部分(軟骨部外耳道)には、耳毛、皮脂腺、耳垢腺(じこうせん)(汗を出す汗腺の一種)があり、弱酸性の分泌液で潤っていて抗菌作用を持っています。耳の奥から運ばれてきた上皮は軟骨部外耳道に入ると剥がれ落ち、皮脂腺や耳垢腺からの分泌液と混ざり、ゴミやホコリを吸着して耳垢となって外に排出されます。軟骨部外耳道より奥の部分(骨部外耳道)には、基本的に耳垢は発生しません。そのため健康な方は1か月に1度、軟骨部外耳道だけを掃除する程度で十分。やり過ぎると、皮膚を傷つけるだけでなく、刺激により皮膚が肥厚して痛覚が鈍くなり、知らずに耳垢を奥へ押し込んだり、鼓膜に穴を開けたりする原因にもなります。お風呂上がりや長時間イヤホンを使用した後など、耳がかゆくなり、ついつい綿棒で何度も耳掃除をしがちですが、やり過ぎないように注意しましょう。
Q 正しい耳掃除の方法は?
耳を後上方にひっぱり、綿棒の先端部分だけを耳の穴の中央に入れて、くるりと回転させる程度で十分です。先端の長さよりも深く入れたり、皮膚をこすり過ぎたりしないようにしましょう。お子さんやパートナーの耳を掃除する際は、拡大鏡付きのヘッドライトを用いると安心です。ただ、非常に大きな耳垢ができてしまう体質の方がいらっしゃいます。ご不安な方は、耳鼻科で耳掃除をしてもらうようにしてください。
~ホッと!HANSHINとは~
グルメやカルチャー、エンターテインメント、観光スポットに関する情報など阪神沿線の様々な「魅力」をぎゅっと紹介する沿線情報紙。阪神電車の各駅や阪急電鉄や近鉄(奈良線)の主要駅などで無料配布しています(毎月25日発行)。
▶「ホッと!HANSHIN」で紹介している今月の特集や駅周辺のスポット、イベント情報はWEBでもご覧いただけます。
https://www.hanshin.co.jp/area/
阪神電気鉄道(株)は、阪神間において安全で質の高い医療の提供に取り組む神戸大学・兵庫医科大学と連携し、沿線住民の健康増進への貢献を通じた沿線の活性化を推進しています。2016年からは、子どもから大人までが健康や医療について楽しく学べる「HANSHIN健康メッセ」を開催しています。
▶「HANSHIN健康メッセ」WEBサイトはこちら
https://www.kenko-messe.com/