働く世代の女性に多い「子宮頸がん」についてもっと知りたい!
早期発見や予防のための検診とワクチンのことを専門家に聞いてみた

乳がんをはじめとする女性特有のがんの中でも20〜30代の若年層の割合が多く、40代が罹患者数のピークとなっている「子宮頸がん」。
今回、お話を伺ったのは、公益社団法人日本産科婦人科学会 理事長の木村 正さんと、ご自身も子宮頸がん経験者である一般社団法人シンクパール 代表理事の難波美智代さん。
恋愛・結婚・妊娠・出産・子育て・キャリアアップといったライフステージの変化期を健やかに過ごすために私たちができることは?

――子宮頸がんはどんな病気なのでしょうか。

(木村)子宮頸がんとは子宮頸部、つまり子宮の入り口部分にできる子宮がんの一種です。子宮頸がんの発生には主に「ヒトパピローマウイルス(HPV)」の感染が関連しています。HPVは性交渉で感染するのですが、通常は免疫によって排除されるため、それだけでがん化することはありません。しかし、HPVが排除されず感染が続くと子宮頸がんへと進行します。日本では毎年約1.1万人の女性がかかる病気で、毎年約2,800人が亡くなっています。

(難波)子宮頸がんは初期であっても手術によって子宮の一部を切除、または全部を摘出することになります。実際に私も36歳の時に子宮頸がんと診断され、子宮を全摘出しました。30代までにがんの治療で子宮を失う方も毎年約1,200人います。自覚症状は全くと言っていいほどありませんので、検診が早期発見の鍵なのです。

(木村)がんに進行する可能性のある状態を異形成と呼びます。定期的に検診を受けてくださいとお伝えしているのは、子宮頸がんはがんになる前の異形成または初期の段階で見つけて治療すれば、多くの場合、命を落とさず治すことができる病気だからです。

――子宮頸がん検診を受けてみようと思ったら、どこに行けばいいのでしょうか。

(難波)お住まいの市区町村が実施しているがん検診に申し込むことができます。一定年齢の方には検診無料クーポン券と一緒に案内が送られてくることがほとんどですが、まずはお住まいの自治体ホームページや窓口などで、どのようにがん検診が行われているかチェックしてみましょう。働いている人の場合は、職場の定期健康診断と併せてがん検診も行われていることが多いです。

(木村)子宮頸がん検診は20歳以上の女性を対象に2年に1回のペースでの検診を推奨しています。「検診」というのは無症状の健康な方を対象に行うものですので、おりものが多いとか不正出血があるなど、何らかの異変がある場合はすぐに婦人科に行きましょう。保険適用の「受診」をするようにしてください。

――世界では「子宮頸がん撲滅宣言」が行われたそうですが、現在、日本ではどのような状況なのでしょうか。

(難波)オーストラリアでは2028年までには子宮頸がんがほとんどなくなるという研究が発表されています。現在世界の120カ国以上において公費によるHPVワクチンの接種プログラムが導入されています。10代から20代半ばごろまでの女性は学校またはかかりつけ医のもとで無償接種ができるようになっており、イギリスやデンマークでは約80%の女性がHPVワクチンを接種しています。日本でも小学6年生〜高校1年生までの女性を対象にHPVワクチンの無償接種を提供していますが、接種率は1%未満と、先進国の中ではかなり逆行している状況です。

――HPVワクチンについて教えてください。

(木村)HPVにはたくさんの種類があって、中でも子宮頸がんを起こしやすい型のものがいくつかあるとわかっています。このうち一番がんを起こしやすいタイプのHPVの感染を防ぐ効果があるのがHPVワクチンです。半年の間に3回接種を受けます。HPV感染前の予防という点から高校1年生までに受けるのが望ましいのですが、対象年齢を過ぎても接種は可能です。公費補助がない場合は3回接種で4〜5万円程度です。

HPVワクチンは2006年に欧米で生まれ、使われ始めました。日本では2009年12月に承認され、2010年度から公費助成がスタートしています。2013年4月に定期接種化されましたが、接種後に多様な症状が報告されたため、同年6月に接種の積極的勧奨が差し控えとなり、現在も続いています(2020年10月、対象者へ個別に必要な情報を届ける旨の通知が発出されました)。一時は接種率が70%程度であったのに対して、2002年度以降生まれの女性では1%未満となっているのはそうした背景があるからです。

(難波)新型コロナウイルスの流行によってワクチンというものが一般的に身近な存在になったかと思います。どんなワクチンであっても、ワクチンにはベネフィット(有効性)とリスク(有害事象)があります。そのどちらが上回るかを科学的根拠に基づき、正しく理解していただくことが大切だと思います。

(木村)もちろん、ワクチン接種をしないという選択肢も尊重されるべきです。また、HPVワクチンを接種していても子宮頸がん検診は必要ですし、検診でも見つかりにくいがんもあります。ワクチンによるHPVの感染予防と定期的な検診による早期発見の2つの対策の重要性を多くの方に知っていただきたいです。