味噌は医者知らず

ー味噌ソムリエが語る発酵食 味噌 の魅力ー

「味噌は医者知らず」これは、味噌に関する先人の言い伝えのひとつです。
その心は、「味噌は、日々食べておけば医者にかかる心配がないほど健康に良いですよ」ということ。そう、味噌は日本が生んだスーパーフードなのです!

昔からアジア圏では、湿度や四季の変化があることで多種類の微生物が繁殖したことと、人々の食物の保存性を高める必要性とが合わさり、多様な発酵食文化が築かれました。
その中でも日本は米に由来する微生物を上手に利用して今日の食文化を紡いできました。稲穂から麹菌(アスペルギルス・オリゼー/国菌と言われる)を採取し、日本酒、醤油、味噌、みりん、鰹節、甘酒などの天然調味料を作り出し、また、糠の乳酸菌を利用した漬物や藁の枯草菌を使った納豆なども生み出しました。
まさに、発酵食は、自然と微生物と人とのコラボレーションの結晶。それを長年作りつないできているなんて、何だかすごくロマンを感じてしまいます。(私だけかしら?)

近年の健康ブーム、そして新型コロナウイルス流行により、今、この発酵食が世界中から注目されています。それは、ご存知の通り、発酵食は私たちの腸内環境を整え、免疫力を高めてくれることがわかっているから。

中でも、味噌は発酵食業界の健康番長ともいうべき存在です。
それはなぜか。
味噌の原料は米味噌の場合、大豆と米麹と塩ですが、麹菌が大豆と米を分解していく過程でたくさんの栄養素を作ります。それをさらに他の微生物が分解して・・・と約1年の熟成期間中に実に様々な栄養素が作り出されるのです。
タンパク質(アミノ酸)、ミネラル、ビタミン、食物繊維、ポリフェノールなどが微生物の分解により吸収しやすい形で豊富に含まれ、たくさんの有用な発酵菌(麹菌、乳酸菌、酵母菌など)も入っています。まさに、スーパーフード中のスーパーフード。

お味噌汁を毎日とることにより腸内環境が整い、消化排泄能力が上がったり、病原体に対する抵抗力がついたり、がんの発生率を抑えたり、血管や筋肉や皮膚が強くなったり、高血圧が抑制されたり、不思議なことに認知症やうつの予防に効果があるという研究結果まであります。これらを見ると、デトックス(解毒・排泄)から健康な体作り、精神的の安定まで幅広く味噌が役立つことがわかりますよね。
一杯のお味噌汁を飲むだけでいいなんて、安上がりです。(笑)

でも、ひとつだけ注意していただきたいことがあります。それは、「本物の味噌」を使うということです。味噌は先述のように本来半年から1年もの熟成期間を必要とします(本醸造と言います)。ですが、近年はほとんど熟成をせず、豆のペーストに食品添加物で味付けと色付けをしたような「味噌もどき」が安価で市場に出回っています。それでは健康効果は望めません。
必ず製品の裏面を見て米味噌(全国味噌出荷量の8割)であれば「大豆・米麹・食塩」、豆味噌(東海地方)であれば「大豆麹・食塩」、麦味噌(九州地方)であれば「大豆・麦麹・食塩」とだけ書いてあるものを選ぶようにしましょう。

そして、もうひとつ。ちょっとハードルの高い提案かもしれませんが、是非チャレンジしていただきたいのが「手前味噌」です。自分で作る味噌は格別です。私も毎年冬になると味噌仕込みワークショップを開催していますが、材料は同じなのに1年経って出来上がった味噌は仕込み手によって様々で、面白いことにちゃんとそれぞれのお家の味になるんです。そして、自分の味噌が一番美味しい、とみんなが思う・・・まさに手前味噌ですね。その美味しさは、ちょっと感動的だったりします。しかも出荷のための火入れもしない生味噌ですから、酵素が生きていて力強い。きっと我が家の宝物になるはずです。

ご家族やお友達同士で一緒に仕込めば、楽しいイベントにもなります。みんなでこねる味噌は、参加者の持つ手の常在菌も混ざり合って、一層多様なハーモニーに。潔癖症の人は、“菌”と聞くと“バイ菌”を連想して拒否反応を抱くかもしれませんが、ご安心あれ。味噌の中で“バイ菌”は生きられません。制菌作用のある塩と、発酵菌が圧倒的に優勢な場において、食中毒を起こすような腐敗菌はあっという間に殺菌されてしまいます。ですから、味噌を食べて食中毒が起きたという例はこれまで1例もないんですよ。

ここまで味噌の健康効果について熱く語ってきましたが、いかがだったでしょうか?「毎日のお味噌習慣」始めようかな、なんて思ってくれたなら本望です。(笑)
でも、「体にいいのはわかるけど、毎日お味噌汁を作るなんて面倒くさい」なんて思っている方がいたら、もうひとつご提案。「本物の味噌」を入手したら、それを湯に入れて溶かすだけでもいいのでやってみましょう。

朝、起き抜けに白湯を飲む方も増えていますが、そこに少し味噌を溶かすだけで良いです。本醸造のお味噌はしっかり旨味があるので出汁いらずなのです。それでももし物足りなかったら、鰹節をひとつまみ。これで立派な美味しい朝の毒出しスープの完成です。

それでは、本日はここまで。次回もまた、ちょっとディープな味噌トークを展開して参りますので、お楽しみに。それまで毎日お味噌汁、続けてくださいね!

参考文献:
「新しい腸の教科書」江田証
「免疫力」藤田紘一郎
Profile

岸 紅子Beniko Kishi
•NPO法人日本ホリスティックビューティ協会代表理事
•環境省「つなげよう、支えよう森里川海」アンバサダー

自身や家族の闘病経験をもとに、2006年にNPO法人日本ホリスティックビューティ協会(HBA)を設立。多数の美容・健康・医療関係者とともに女性の心と体のセルフケアの普及につとめ、資格検定や人材育成を行う。また、自らも自然治癒力や免疫力を引き出すためのウェルネス講座を幅広く実施。
環境アクティビストとしても、ライフスタイルを通じた人にも地球にも優しいSDGsアクションを多く提言している。パーマカルチャーデザイナー、発酵食スペシャリスト、味噌ソムリエの一面も持つ。