【教えて!沿線のお医者さん!】くも膜下(まくか)出血は予防できる病気だった!?その方法を教えて!(兵庫医科大学+阪神電車)
突然倒れて意識を失い、生命にもかかわる病気「くも膜下出血」。“誰にでも起こり得る病気だが、発症するかどうか予測不可能だ”と思っている方も多いと思いますが、実は未然に防ぐことができる病気だと言います。兵庫医科大学の吉村紳一先生に詳しく伺いました。
※この記事は、阪神電車の沿線情報紙「ホッと!HANSHIN」2020年5月号に掲載された情報であり、掲載時点の情報となります。また、駅名表記について、記事に特段記載がない限り、阪神電車の駅となります。
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<教えてくれた先生はコチラ!>
兵庫医科大学 脳神経外科学
主任教授・脳卒中センター長
吉村 紳一先生
『脳動脈瘤(のうどうみゃくりゅう)の治療(血管内治療・外科治療)や、もやもや病に対するバイパス治療を含む、脳血管障害全体の治療症例が非常に多く、メディアにもしばしば登場。著書に「脳卒中をやっつけろ」(三輪書店)などがある。』
●兵庫医科大学病院 武庫川駅→徒歩約5分
https://www.hosp.hyo-med.ac.jp
Q くも膜下出血とはどんな病気?
「脳卒中」※1の一種で、脳を覆う「くも膜」の下に出血が生じる病気です。大多数は、脳の血管の一部が膨らんでできた「こぶ(脳動脈瘤)」の破裂が原因で起こります。脳動脈瘤は、成人の約20~30人に1人が持っており、そのうち破裂するケースは年間約1%。例えば50歳で発症した場合、残りの人生を30年とすると、人生の30%(毎年破裂する可能性1%×30年)を破裂するリスク(=生涯の破裂率)を負って生きることになります※2。一度破裂してくも膜下出血を発症すると、手術や集中治療を受けても社会復帰できる人は約20~30%。残りの70~80%は寝たきりなどの後遺症を生じたり、亡くなったりする大変な病気です。
※1 脳の血管が破れたり詰まったりする病気で、日本人の死亡原因数第3位。血管が破れる病気には「くも膜下出血」のほかに「脳出血」が、血管が詰まる病気には「脳梗塞(のうこうそく)」がある。
※2 30%は参考数値。実際はもう少し少ないという説もある。
Q 脳動脈瘤の破裂は防げるの?
脳動脈瘤が見つかった場合の対応には、①経過観察 ②開頭手術③血管内治療 の3通りがあります。脳動脈瘤は、大きくなるほど破裂率が格段に高くなります。そのため、サイズが3~4mm以下と小さいうちは何もせず、定期検査を受けて、大きくなった際に治療をするという方法が「経過観察」です。小さいまま大きくならない方もいますが、小さくても破裂しやすい場所や形があったり、急激に大きくなったりするケースもあります。そういったリスクを回避するために治してしまおうとするのが「開頭手術」と「血管内治療」です。どの方法を選ぶかは、脳動脈瘤の状態や場所、年齢、ご本人やご家族の意思などを総合し、十分話し合って決定します。
Q 開頭手術ではどんなことをするの?
脳動脈瘤の根元をクリップで挟む手術を行います。クリップで脳動脈瘤の中に流入する血液をせき止めることで、破裂するのを防ぎます。どんな形状の脳動脈瘤でも手術ができ、再発もほとんどありません。ただ、切る治療は痛みを伴うため、最近では「血管内治療」を選択するケースが増えてきました。
Q 血管内治療はどんなことをするの?
足の付け根から血管内に細い管(カテーテル)を挿入し、そこから細い金属の糸のようなもの(コイル)を入れて、脳動脈瘤の内部を埋め尽くし、血液が流れ込むのを防ぐという方法です。脳動脈瘤の入り口が広い場合は詰めたコイルが出てきてしまうため、金属のメッシュでできた筒(ステント)を併用して、コイルが出てくるのを防ぎます(下図1)。ただし、脳動脈瘤が血管の枝分かれしている部分にできている場合には工夫や技術が必要で、開頭手術を行うほうが良いケースもあります。
また、大きな脳動脈瘤の場合は、中を埋めるのに高価なコイルを何十本も使わなければならず、費用がかかるうえ、再発するケースも多いことが報告されています。そこで新しく開発されたのが「フローダイバーター」という器具です。
Q 最新器具「フローダイバーター」って?
ストッキングのような非常に目の細かいステントのことです。これを、カテーテルの中に通して、脳動脈瘤のできている血管に置きます。
筒状なので血管の血流は保たれますが、脳動脈瘤の入り口は目の細かな壁でふさがれるため、中に入ろうとする血流が淀みます。すると、脳動脈瘤の中の血液が固まり、徐々にしぼんできれいになくなります(下図2)。現在は、使用できる血管や治療できる病院が限られていますが、さらに広い範囲に使える器具も登場しており、今後どんどん広がっていく治療だと思います。
Q 脳動脈瘤を見つけるには?
脳動脈瘤を見つけるには、MRI検査などを受けるしかありません。脳動脈瘤は自覚症状が全くない場合がほとんどで、破裂する際の前兆もまずありません。自分は元気だと思っている方も、少なくとも50歳を過ぎたら(喫煙、大量の飲酒をされる方や高血圧の方は、30~40代の頃から)、5年に1度は検査を受けるようにしてください。普段から頭痛やめまい、しびれなど他に気になる症状があって診察を受けようと思っている方は、一緒にMRI検査も申し出てみましょう。そうでない方は、脳ドッグを受けると良いでしょう。
Q 脳動脈瘤が見つかったらどうすればいい?
脳動脈瘤は一度できてしまうと、食事や薬の服用で治癒することはありません。ただし、専門の病院で比較的安全に予防治療が可能です。病院を選ぶ際は、ホームページなどで脳動脈瘤の治療件数を調べると参考になるでしょう。くも膜下出血を含め、ほとんどの脳卒中は予防が可能です。「自分は大丈夫」と思わずに、ぜひ検査して治療を受けてください。
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