【教えて!沿線のお医者さん!】驚異の感染力!ノロウイルスから身を守るためには?(神戸大学+阪神電車)

毎年冬に入ると、ニュースなどで耳にすることが多くなる「ノロウイルス」。集団で感染したという内容をよく耳にしますが、一体どうしてなのでしょうか。感染した時や周りに感染者が出た時に感染を広げないための対処方法や、普段の予防方法など、気になることは多々あります。そこで、ノロウイルスにまつわる様々な知識を、神戸大学医学部附属病院の宮良高維(みやら たかゆき)先生に伺いました。しっかり対策をして、感染しないように気をつけましょう!

※この記事は、阪神電車の沿線情報紙「ホッと!HANSHIN」2019年12月号に掲載された情報であり、掲載時点の情報となります。また、駅名表記について、記事に特段記載がない限り、阪神電車の駅となります。

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<教えてくれた先生はコチラ!>

神戸大学医学部附属病院 感染制御部
部長 特命教授 宮良 高維先生
専門は、呼吸器感染・肺炎。様々な病院で、病院感染の日頃の予防対策の先導や、外から持ち込まれるウイルスの伝播防止に携わる。
『感染性疾患は予防できます。病原体で汚染されやすいトイレの後は特に、40秒以上の手洗いを心がけてください。』

●神戸大学医学部附属病院 高速神戸駅→徒歩約15分
http://www.hosp.kobe-u.ac.jp/


Q ノロウイルスとはどんなもの?

ノロウイルスとは、人の小腸上皮で増殖するウイルスで、感染すると下痢、嘔吐、発熱などの症状を引き起こします。非常に感染力が強く、10~100個程度の少量のウイルスが人の体内に入るだけで感染が成立すると言われています。日本で起きた食中毒の件数は、カンピロバクターなどの細菌や寄生虫によるものが最も多いですが、患者数ではノロウイルスによるものが断トツの1位。なんと食中毒患者全体の約6割を占めます。それほど、1件あたりの感染患者数が多いということになります。

Q どうやって感染するの?

感染源は、ノロウイルス感染者の下痢便や吐物です。感染者の下痢便や吐物の1グラム中には、およそ1億個のウイルスが存在していると言われます。100個程で感染してしまうことから、99.9999%のウイルスが除去できても0.0001%が残っていれば感染する可能性があるということです。そのため、下痢便や吐物に触れてウイルスが付着した手からはもちろん、その手で触れたドアノブや衣類、食品からも感染しますし、吐物や下痢便が乾燥して空気中に浮遊したウイルスを吸い込んだだけで感染した、という報告があります。

Q 牡蠣(かき)が感染源ではないの?

日本の下水処理場では99%以上のウイルスを除去できますが、100%ではありませんので、残留したウイルスが下水に混ざり、河川から海へと流れてしまいます。牡蠣は1日約200リットルの海水を吸い込むと言われており、ノロウイルスが混ざった海水を吸い込むと、消化管にあたるところにウイルスが蓄積し、その牡蠣を人間が食べることで感染します。つまり、牡蠣が感染源ではなく、感染した人間から排出されたウイルスに、牡蠣を通じて感染するのです。ノロウイルスは85~90℃の状態が90秒以上続くと死滅するので、不安な方は中まで十分に加熱してから食べることをおすすめします。

Q 日本で集団感染した事例を教えて!

あるホテルで、宴会参加者が2か所に嘔吐し、従業員が中性洗剤で拭き取って掃除機をかけたところ、約400名の方に感染したという事例があります。400名が共通して食べたものがなかったため食中毒とは考えにくく、嘔吐した場所の風下で現場に近いところにいた人ほど多くの発症者が確認されたことから、舞い上がったウイルスを吸って感染したと推測されます。他の事例では、広域流通食品を扱う業者の方が、ノロウイルスに感染しているとは知らずに素手で食品加工機を使ったところ、その1~2か月後に、当時出荷された製品を食べた全国の約2,000人が感染したという事例もあります。業者の方がトイレ後に手を洗わなかったとは考えにくいので、洗った手からウイルスが食品に付着し、2か月経っても死滅しなかったということになります。

Q 感染を広げないためにはどうすればいい?

吐物や下痢便が付着したものは、塩素系漂白剤を用いるか、熱湯や蒸気で85~90℃の状態を90秒以上続けると殺菌できます。床に嘔吐した場合は、乾燥して浮遊するのを防ぐため、すぐに新聞紙で覆って上から塩素系漂白剤をかけて拭き取った後、再度、殺菌してください。処理する際は、マスク、使い捨てのビニール手袋(単にビニール袋やレジ袋を代用しても可)の着用と、長袖は必ず捲り上げることを忘れずに。また、ノロウイルスは、5人に1人の割合で、感染しても症状が現れない人(不顕性(ふけんせい)感染者)がいますが、その人の便にもウイルスは存在します。症状がなくてもトイレ後に手洗いを怠ると、ウイルスを拡散させる可能性があります。普段から正しい手洗いをすることが非常に大切です。

Q 正しい手洗い方法を教えて!

以下の手順を、40秒以上かけて行ってください。石鹸のみで100%の除菌はできません。石鹸を使いながら、ウイルスがついた手の皮脂ごと、しっかり洗い流すという意識で行いましょう。また、調理器具も定期的に塩素系漂白剤で殺菌すると安心です。

●正しい手洗いの仕方
①爪は短く切り、手首までしっかり洗えるように、時計や指輪をはずす。
②手全体を水で濡らしてから石鹸をつけて泡立てる。
③手のひら、手の甲、指の間、爪の先、手首をしっかり石鹸で洗う。親指は洗い残しやすいので、反対の手でつかんでしっかり洗うこと。
④流水で時間をかけて洗い流し、清潔なタオルやペーパーで拭き取る。

Q ノロウイルスにかかったらどうすればいい?

ノロウイルスは人にしか感染しないため、マウス実験や培養をして研究することができず、現状では有効な治療法がありません。症状は、1日目が最もひどく、2~3日で落ち着きます。その間は下痢や嘔吐は抑えずに、体外に排出したほうがいいと言われています。耐えられるなら、すぐトイレに行ける自宅で休むのがいいでしょう。ただ、お年寄りやお子さま、免疫抑制剤を使用されている方などは、症状が悪化する恐れがありますので、かかりつけの病院で診察を受けてください。また、3日を過ぎても症状がひどくなる場合は、ノロウイルスが原因でない可能性がありますので、必ず受診してください。

 

 

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