【教えて!沿線のお医者さん!】沈黙の臓器と呼ばれる肝臓、どんな病気があるの?(神戸大学+阪神電車)

肋骨に守られるように位置する最大の臓器、肝臓。「肝臓は沈黙の臓器」とよく言われますが、いったい何故なのでしょうか。そもそも肝臓は、体内でどんな役割を担っているのか?肝臓で起こりやすい病気とは?など、肝臓にまつわる様々な疑問を、神戸大学医学部附属病院の福本 巧先生に伺いました。

※この記事は、阪神電車の沿線情報紙「ホッと!HANSHIN」2019年10月号に掲載された情報であり、掲載時点の情報となります。また、駅名表記について、記事に特段記載がない限り、阪神電車の駅となります。

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<教えてくれた先生はコチラ!>

神戸大学大学院医学研究科 肝胆膵外科学分野
教授 福本 巧先生
肝臓がんや肝移植などの外科治療が専門。チーム医療や先端技術を駆使した、難治性肝胆膵疾患の新しい治療の可能性を追求している。
『肝臓がんの5年生存率は50%以上となり、腹腔鏡手術も可能になりました。早期発見が大切です。』

●神戸大学医学部附属病院 高速神戸駅→徒歩約15分
http://www.hosp.kobe-u.ac.jp/


Q 肝臓の働きを教えて!

肝臓には、主に3つの役割があります。1つ目は、胃腸で消化・吸収された栄養をエネルギー源に変えて貯蔵し、体内に送り出す「代謝」。2つ目は、脂肪を吸収しやすくする消化液・胆汁を作って分泌する「胆汁の生成」。3つ目が、体内の有害物質を無害化する「解毒」です。「解毒」するもので身近なものがアルコール。体にとって有害物質となるため、肝臓で分解して無毒化されます。この分解に使われる酵素の働きには個人差があるため、働きが良くてお酒に強い人もいれば、少し飲んだだけで顔が真っ赤になるほど弱い人もいます。お酒を飲むほど酵素の働きは強くなると言われていますが、もともと酵素を全く持っていない人もいます。そのような方は、アルコールを分解する際に発生する、アセトアルデヒドという毒素が強い物質を解毒することができず、体に蓄積され、食道がんを誘発すると言われています。

Q どうして沈黙の臓器と言われるの?

肝臓には痛みを感じる神経がありません。また、肝臓が徐々に病気に冒されて機能が低下しても、全体の30%が正常であれば、日常生活で気付かない程度に機能しようとします。つまり、病気の自覚症状が出たときには、症状がかなり進行していることがあります。それが「沈黙の臓器」と言われる理由です。では、肝臓の70%が機能低下しても大丈夫かというと、そうではありません。例えば残りの30%にがんが潜んでいる場合もあり、そうなると治療が大変難しくなります。「沈黙の臓器」だからこそ、検診を受けて肝臓を労わることが大切です。

Q 主な肝臓の病気は?

肝臓で起こる主な病気は、「脂肪肝」「肝炎」「肝硬変」「肝細胞がん」の4つです。脂肪肝は、肝臓に脂肪が多くたまった状態。放置すると、炎症が起こって肝炎になり、その後、徐々に繊維化して肝硬変を発症し、がんへと進行することがあります。また、脂肪肝から進行する病気のうち、お酒の飲みすぎで起こるものを「アルコール性肝疾患」、お酒をあまり飲まない人でも起こるものを「非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLED)(ナッフルディー)」と言います。NAFLEDはカロリーの摂り過ぎを原因とするもので、カロリーを控えれば改善する「単純型」と、カロリーを控えても改善しない重症の「非アルコール性脂肪肝炎(NASH)」の2種類に分けられます。NASHは、肝硬変やがんに進行しやすく、肥満、糖尿病、高血圧、脂質異常の方に多く見られるのが特徴で、メタボリックシンドロームの方の増加に伴い、近年、日本で増加傾向にある疾患です。また、肝炎には、脂肪肝から進行するもののほかに、ウイルスに感染して起こる「ウイルス性肝炎」も代表的です。このウイルス性肝炎も同じく、肝硬変や肝細胞がんへと進行する可能性があります。

Q ウイルス性肝炎って?

ウイルス性肝炎にはB型肝炎とC型肝炎があり、どちらも血液を介して感染します。特に、B型肝炎は性交渉や出産時の母子間でも感染することがあります。乳幼児期に感染するケースが多いため、4~5歳までに感染しなければ、キャリア(ウイルスを保有している人)にはならないと思われていましたが、近年、外国由来のウイルスに感染し、成人してからキャリアになるケースが増えています。C型肝炎は薬で治せる確率が非常に高く、B型肝炎もウイルスは排除できませんが、肝炎を抑えることはできます。ただ、投薬により、ウイルス性肝炎が治ったとしても、遺伝子を傷つけられた肝臓は、がんを発症しやすくなりますので、定期的に医療機関を受診するようにしてください。

Q 肝臓の病気にかかっているかどうかを調べるには?

肝臓の病気は、自覚症状がないことがほとんどですので、検査による客観的な診断が必要です。通常の検診で行われる血液検査の数値を見ただけでは、なかなか肝臓の病気を見極めるのは難しいですが、超音波検査をすれば、脂肪肝や肝硬変を見つけることができます。定期的にそういった検診を受けるようにしてください。メタボリックシンドロームの方は、肝臓の病気にかかっている確率が高いので、肝臓の専門医による詳しい血液検査や、超音波、CT、MRIなどの画像検査を受けることをおすすめします。病変が見つかれば、肝臓に針を刺して少量の組織片を採取し、顕微鏡で観察する肝生検と言われる検査を行って詳しく調べます。また、ウイルス性肝炎かどうかを調べる肝炎ウイルス検査は、保健所や医療機関で受けられます。大阪市や神戸市では、一度も肝炎ウイルス検査を受けたことがない方を対象に、B型肝炎及びC型肝炎のウイルス検査を無料で実施しています。

Q 肝臓の病気にかからないためには?

食べ過ぎ、飲み過ぎを避け、適度な運動をして、睡眠をしっかりとることが大切です。メタボリックシンドロームの診断基準のひとつである、ウエスト周囲径(おへその高さの周囲)が、男性なら85cm、女性なら90cmを超えないことや、肥満度を表すBMI [体重(kg)÷身長(m)の2乗]が25を超えないことを目標にしてください。

 

 

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