【教えて!沿線のお医者さん!】「緩和ケア」について(兵庫医科大学+阪神電車)

「緩和ケア」と聞くと、「もう治療はできない」「終末期の患者さんが受けるもの」と思っていませんか?ですが実際は、病気のつらい症状や不安を和らげるための支援として、がんの治療と並行して取り入れられるケースが増えています。患者さん本人だけでなく、ご家族のサポートも大切な役割のひとつです。兵庫医科大学の狩谷伸享先生と看護師の乾貴絵さんに詳しく伺いました。

※この記事は、阪神電車の沿線情報紙「ホッと!HANSHIN」2025年7月号に掲載された情報であり、掲載時点の情報となります。また、駅名表記について、記事に特段記載がない限り、阪神電車の駅となります。

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https://healthcare.hankyu-hanshin.co.jp/doctor/


<教えてくれた先生はコチラ>

兵庫医科大学 麻酔科学
臨床教授 狩谷 伸享先生
2024年11月から緩和ケアチームに所属。手術麻酔を専門としてきたスキルに加え、自身の病気体験を元に、緩和ケアに取り組む。
『緩和ケアは、つらい治療を前向きに乗り切るためのサポートを行う場です。近年は早い段階から受けられるケースも増えています。』

兵庫医科大学病院 緩和ケアセンター 
副センター長 乾 貴絵看護師
2007年から緩和ケアチームに所属。学生時代から緩和ケアを志し、緩和ケア認定看護師の資格を取得。教育活動も精力的に行う。
『治療に向き合う中で、ご自身のつらさに気づきにくくなる方もいらっしゃいます。そうした気持ちに寄り添うケアを心がけています。』

●兵庫医科大学病院 武庫川駅→徒歩約5分
https://www.hosp.hyo-med.ac.jp


Q 緩和ケアとは?

狩谷:
緩和ケアとは、重い病気にともなう「痛み」や「息苦しさ」などの身体的な苦痛や、「眠れない」「不安で仕方がない」といった精神的な苦しみを和らげる医療のことです。患者さん本人だけでなく、ご家族のサポートや地域の医療機関との連携も、大切な役割のひとつです。

乾:
緩和ケアは主治医のほか、麻酔科医や精神科医、薬剤師、臨床心理士、緩和ケア認定看護師、がん性疼痛(とうつう)看護認定看護師、医療ソーシャルワーカーなど、さまざまな職種が連携して進めます。当院では、さらに理学療法士、作業療法士、管理栄養士なども加わったチームが、各病棟や外来で患者さんの状況に応じた支援を行っています。緩和ケア病棟がある医療機関もあり、提供のかたちや関わり方は、施設によってさまざまです。

Q 具体的にどんなことをするの?

乾:
まず、医師、看護師が痛みや気持ち、経済的な不安など、どのようなつらさを抱えていらっしゃるのかを丁寧に伺い、その内容を各専門スタッフと共有します。たとえば、ご飯が食べられないという訴えには、管理栄養士が少しでも食べられるようなメニューを工夫するなど、できるかぎりの対応をします。

狩谷:
麻酔科医や薬剤師は、患者さんの状態に応じて薬を細かく調整し、強い痛みを和らげたり、不眠、息が苦しいといったつらい症状を改善する対応を行ったりします。また、臨床心理士と、不安な気持ちを伺ったり、しんどくて後回しにしがちな「楽しかったことを思い出す」「感謝の気持ちを伝える」といった時間を取り戻せるように、お手伝いをしたりすることもあります。緩和ケアのスタッフは、患者さんがくつろいだ気持ちになり、病気で失いがちになってしまう「生きる力」を取り戻していけるよう、チーム全員で支えていきます。

Q どんな患者が緩和ケアの対象ですか?

狩谷:
一般的に、がんと診断された患者さんが中心ですが、当院では、進行した心不全の方も対象としています。

乾:
「緩和ケア=余命宣告を受けた人へのケア」というイメージを持たれがちですが、それは誤解です。がんの治療中の方も、痛みや不安、眠れない、食欲がないなど、つらい症状があるときには、治療と並行して緩和ケアを取り入れることができます。

Q 緩和ケアを受けるメリットは?

狩谷:
症状が和らぐことで、前向きに治療に取り組めるようになり、治療効果が高まるという報告もあります。また、余命宣告を受けた方が、緩和ケアによって痛みやつらさが軽減され、ご自宅で穏やかな最期を迎えられる確率も高くなっています。

乾:
「緩和ケアを始めたら、もう治療はしてもらえないのでは」と敬遠されていた方が、「もっと早く受ければよかった」とおっしゃることは少なくありません。苦痛が軽くなることで、気持ちに余裕が生まれ、治療にも前向きになれることが、緩和ケアの大きなメリットです。

Q 緩和ケアを受けたいと思ったら?

狩谷・乾:
がんの治療を行っている大きな病院では、緩和ケアの体制が整っていることが多いので、まずは主治医や担当の看護師に相談してみてください。治療とのバランスや、これからどうしていきたいかという希望を踏まえて、同じ病院で緩和ケアを受けられるのが理想です。
緩和ケアは、治療を終えるためのものではなく、治療を支えるためのケアです。選択肢のひとつとして前向きに考えていただけたらと思います。

 

 

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